進度の速い英語授業vs.音読を取り入れた遅い授業(前編)
授業が速ければ英語力の向上も速いのか?(前編)
進学校などではよく「うちの学校は他校と比べて進度が早いです」とアピールすることがあります。
この背景にはつまり、進度が速いということは、生徒の集中力も理解力も高く、どんどん授業を進めることができ、これによって他校よりも先取りで学習ができ、また他校では扱わないような深い内容を教えたり、より豊富に問題を解いたりする時間も確保され、生徒の力はますます伸びていく、
そんな素晴らしい学校ですよ、と宣伝する意図があります。
確かに学習という行為を進めるにあたっては、より短い時間でより速く、そしてより多くのことを学ぶことができるに越したことは無いのでしょう。
学力の高い生徒が多い学校やクラスでは、進度が遅ければ生徒を退屈させることもありますし、そうした状況では進度の速さが大きな意味を持つことも少なくありません。
しかし、他教科については進度の速さの是非は私にはよく分かりませんが、英語については、進度の速さが英語力の高さにもつながるというのには甚だ疑問です。
英語学習において、進度が速ければ良い、というのは本当に正しいのでしょうか?
音読を取り入れた遅い授業という主張
個人的な体験談ですが、私は過去に次のような体験をしたことがあります。
ある私立の進学校の教員採用試験を受けたときのことです。
この学校を仮にA高校としておきます。(このAはその学校名とは関係ありません。)
A高校は有名な進学校で、優れた大学進学実績も残している学校です。
このA高校の採用試験の際、筆記試験の後、模擬授業をすることになりました。
(ちなみにこれから採用試験を受けられる方のために補足しておくと、どこの学校でも筆記試験、模擬授業、面接というのが大まかな採用試験の流れです。これらは各学校の採用要綱などにも掲載されていますので受験の際には確認してみてください。)
模擬授業に臨むにあたり、私は(これまでにも述べてきたように「理解からの音読」を大切にしていますので)しっかりと生徒に理解を促す意図で、多少時間をかけてでも正しく解説することをまずは心掛けた授業を考え、行いました。
これを見ていた採用担当の英語教員たちは、私の授業が遅いと感じたのか途中で遮って「もう次に進んでください」とイライラした様子で促してきました。
私は誰もが分かり切っているような文法や語法の参考書的解説に時間をかけていたのではありません。
それよりも、英文の語順に従って意味を的確に拾い上げ、その呼吸を感じ取ることのできるような、それ無しには英文を読んだことにはならないとさえ言えるような、根本的に大切なことがらの説明を、対象の英文を用いて行っていたのです。
このように「英文を大切にする指導者」であるということを、私なりにアピールしていたつもりでした。
それが、「もういい加減にして次へ」のようなニュアンスで授業を止められたのです。
次も何も、正しい音読活動につなげるためにはそれ以上に大切だと思えることなど他にはありませんでしたし、求められたことをただこなすだけのつまらない模擬授業をする気になどならないくらいの信念は持っていましたから、結局私は指示に従わずにそのまま最後まで続けることにしました。
その時点で心の中では「あ、この学校の英語教師たちの英語観とはその程度のものなのか」と偉そうにも思ったものでしたし、そのような教師のいる学校で働きたいとも思いませんでした。
(実は、ある文法の考え方についても私が間違っているかのような態度で突っ込まれた部分もあったのですが、その点についても、A高校の英語教師の文法に対する見識の浅はかさに嫌気がさしていたところでもあり、さらなるうんざり感が掻き立てられていたのですが。)
さて、模擬授業が終わり、今度は面接が始まりました。
そこで次のことを尋ねられました。
「模擬授業で使った教材(高校1年生か2年生の教科書の1パートか2パート分くらいの文量だったと記憶しています)を用いて授業を行うとして、あなただったら合計何時間で終わらせますか?」
この問いに対して私は、
「導入から解説、音読、その先の活動まで含めて少なくとも4時間は使います」
と答えました。
すると、
「それじゃあ遅すぎます」
さらに、
「うちでは2時間で終わらせます」
と言われました。
それだけ速い進度で進めてもついて来られるだけの学力がA高校にはあると言いたかったのでしょう。
またしても自分の考え方を頭ごなしに否定された私はいい加減腹が立ち、もう絶対にこんな学校では働きたくないと結論付け、ほとんど喧嘩腰の態度で「2時間では意味がない」などと全力で主張したものですから、当然のごとく不採用となりました。
とにかくこの模擬授業と面接から、A高校は進学校としてのプライドが高く、英語の(恐らくは他教科も)授業進度を速くすることにその意義と価値を見出している、というようなことを感じ取りました。
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