進度の速い英語授業vs.音読を取り入れた遅い授業(後編)
授業スピードは最初から上げてはいけない。タイミングをしっかりと図ってから。
当然のことながら、授業の進度を速めることはやろうと思えばできます。
しかし進度の速さというものは、ある程度の力が備わった上で、さらなる慣れや英語との接触を増やすことを目的としてやるべきものであって、高校低学年の内はその「ある程度の力」をつけるために時間をかけてでも「一定量を何度も」繰り返すことがまずは重要なのです。
(だからと言って、ずっと同じことしかしないわけではありません。遅めの進度でもそれなりに教科書はカバーできますし、私の場合、教科書以外の投げ込み教材でいろいろな英文に触れさせることもします。授業以外でも易しめの英語で書かれた本などを持たせて毎日多読を行わせることもしますし、そうすべきす。)
これまでの経験から言って、授業の進度の速さが生きるのは早くとも高校2年生の後半以降です。
それまでに培った知識や技能を駆使することで、英文をきちんと理解しながら読むことのできるスピードが上がってきているからです。生徒の読解スピードが上がっているからこそ授業のペースも上げてやることができるのであって、はじめから進度の速さばかりにこだわることには無理があるように思えてなりません。
さらに2年生の後半以降の時期に授業の進度のペースアップが実現できることで、大学受験を前に豊富な演習を行わせることも可能になります。
じっくりと時間をかけて英語の正確な理解と慣れをまずは促し、読解スピードも含めた技能が向上してきたところでこちらの授業ペースも上げてさらなる力の向上を目指す。
これが自然な流れと言えるのではないでしょうか。
実際、私が3年生を指導するときは(もちろん生徒のレベルにもよるのですが)難関大学入試レベルの長文を1時間に1長文という恐ろしいスピードで進めることもあります。
そのときには音読をする時間は全くありませんが、生徒には1、2年生の間に大切なことを教え切っており、その過程で培った知識と理解力を頼りに英語を読み、私の授業で確認をして、猛烈なスピードにもどうにかついてこようとします。
そして音読訓練については、これを授業で行う暇はないことを分からせた上で、各自家で音読練習をするように指導します。
音読の重要性とやり方を授業を通じてきちんと伝えられていれば、彼らは家庭でも自主的に音読を続けることができます。
音読はとことんやらせる
さて、ずいぶん脱線してしまいましたが、私の体験談にまで話を戻します。
A高校を不採用となった私は別の学校の採用試験に合格して、そちらの教員として働き始めることになりました。
たまたま1年生から担当させていただく幸運を得ましたので、A高校の主張する「進度の速い授業」が決して正しくはないということを証明しようと考え、あの面接のときに主張した「4時間ペース」の授業を徹底的に行いました。
このペースにおいては、豊富な音読がもちろん取り入れられています。
始業から終業まで1時間(50分間)延々と音読をさせ続けるというようなことまで平気でやります。
ときに授業の5分や10分を音読に充てただけで「今日は音読を取り入れた」と満足する教員もいるかもしれませんが、それでは何もやっていないのも同じです。
やるときにはとことんやらなければなりません。
もちろん、授業の中での音読だけでは絶対的に不十分です。50分間まるごと音読に充てても不十分です。
そのことを理解しつつも、どのように音読をするかを徹底的に体に叩き込ませ、その重要性を主張することが大切なのです。
授業で音読活動を行わないのに「音読は大事だから家でやっておきなさい」などと言ったところで、生徒たちはやり方も分かりませんし、「そんなに大事なら授業でもやれよ」と思うに決まっています。
「遅い授業」が花を咲かせる
このように豊富な音読活動を取り入れつつ、決して速いなどとはお世辞にも言えないペースで私は授業を進めていきました。
そして彼らが2年生になったときの全国模試を迎えました。
これにおいて、進度の速さにこだわったA高校よりも、私の指導した、音読にこだわった進度の遅いクラスの英語の評価の方が、偏差値で5ポイント以上もの差をつけて高いという結果が出たのです。
(全国模試の結果は、学校ごと、あるいはクラスごとの比較を見ることができるのです。)
やがて3年生になり、大学受験では難関大と呼ばれる大学に何人も合格していきました。
私の担当したクラスは、確かに英語が好きな生徒はもともと多いクラスでした。
しかし、入学当初の学力レベルは決して進学校の生徒のレベルではなかったことを思うと、番狂わせ的な伸びを見せたのです。
この一連の流れを通じて、やはり「音読が力を伸ばす」ことを実感することができました。
もちろん、音読が全てではないでしょうし、私一人の力でその結果が出たわけでもありません。
他の英語科目を担当した教員の力と、何よりも生徒一人ひとりの努力が相まって彼らが伸びたことは間違いありません。
しかし少なくとも、「進度の速い授業」が「音読を取り入れた遅い授業」よりも生徒の英語力の向上に必ずしも寄与するわけではないということは言えるでしょう。
ときに生徒たちは「もっと早く進めて欲しい」と言ってくることもあるかもしれません。
「こんなペースで大学受験に間に合うの?」と思われることもあるかもしれません。
ひょっとしたら、「先生の授業が遅いから自分で勝手に勉強しよう」と思って知識を高めていった生徒もいるのかもしれません。
指導者自身もまた、「まだまだ教えなければならないことはたくさんある」というプレッシャーから、できれば音読活動よりも具体的に知識を教えることに時間を使いたいと思うこともあるでしょう。
それでも信じてください。
音読は裏切らないということ。
別項でも述べたように、最終的に英語力の向上や大学受験に成功した生徒は「音読をやってよかった」と言ってくれること。
あなたが信念を持った指導者であり、生徒がついてきてくれる限り、音読は最後に花を咲かせるのです。
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