英語学習で何を音読するか?~大学生・大学院生・社会人・英語教師
何を音読するか?(大学(院)生・社会人・英語教師)
中学や高校での音読練習の素材については別項(「何を音読するか?(中学・高校)」はこちらをクリック)で述べた通りです。
では中学や高校のような授業を受けているわけではない大学(院)生や社会人、さらに英語教師の方々はどのような素材を用いて音読するのが適切なのでしょうか?
中学や高校でははじめから使用する教科書が決まっており、かつ教科書は段階的に英語を学ぶことができるように構成されているため、非常に使い勝手が良くあまり悩まずにこれを利用することができます。
一方、大学(院)生や社会人の方々となると、基本的には自分で何らかの教材を見つけなければなりません。
大学では英語が必須科目ですからテキストは存在するでしょう。
しかしこれからは、ご自身で自分に合った教材を見つけられる方が自主的な責任感も伴うために良いと思われます。
音読素材探しの2つのポイント
音読の素材となる教材の選び方の一つのポイントは、自分にとって「難しくない」レベルのものを選ぶことです。
易しすぎるものは学びの要素が少なく、かといって難しすぎてしまうと分からないがゆえの諦めに簡単に結びついてしまいます。
これまでに述べてきたように、「よく理解できるものを何度も音読すること」が重要です。
ですが、これは必ずしも「簡単であること」を意味しません。
しっかりと理解した文であっても、いざ自分が英作したり話したりしようとするとうまく英文として作ることができないことはよくあります。
インプットよりもアウトプットの方が一般的には難しいわけですから、インプットレベルではよく理解できるがアウトプットができるほどのレベルではない、という程度の素材が適切です。(これは教科書を用いた中学や高校でも同じことです。)
二つ目のポイントは、自分が求めている英語の使用に適うものを選ぶことです。
たとえば理系の大学生は本格的な文学作品よりも科学的な学術論文の方が馴染みがあるでしょうし、ビジネスに携わる社会人の方であれば経営学を学びたいと思われるかもしれません。
英語論文を読みこなしたり書いたりする必要や、経営の知識を利用してマネジメントやネゴシエーションなどの仕事をしたりする必要があるのであれば、これを目指すために最も近い種類の素材を読んだ方が明らかに合理的で好都合です。
科学的な学術論文と言われてもとっつきにくいとは思いますし、英語で書かれた経営学の本などを読みたいとはなかなか思われないでしょう。
論文などは実際に難しいですし、経営学の本にしてもあまり英会話向けではありませんから実使用の観点から言えば不適切でしょう。
私が言いたいのは、学術論文や専門書をいきなり音読の素材にせよということではなく、これに繋がる要素を含んだものを選ぶべき、ということです。
たとえばTEDのスピーチがあります。
TEDと言えばあらゆるジャンルの専門家や思想家が、30分程度の短い時間の中でその内容を分かり易く、ときにユーモアも交えながら観客に向けて楽しく話をする、いわばスピーチイベントのようなものです。
無数に存在するTEDスピーチの中には、論文などにすると難解なはずのテーマをとても分かり易い英語で説明してくれているものが多くあります。
さらにスピーチの構成、つまり導入から結論に至るまでの流れは入念に練られたものであり、文章を書いたり論理的に何かを説明したりする際の参考としてもとても役に立ちます。
観客ありきのスピーチですから、まるで日常会話でもしているかのような振る舞いで英語が使用されていることも魅力的です。
数あるスピーチの中に、ご自身の目的に適うものや、興味があるからやってみようと思えるものが必ず見つかるはずです。
とはいえ、30分間のスピーチは音読素材としては長すぎますから、たとえば冒頭5分間だけとか、自分が気に入った箇所3分間だけとか、「これはいいな」と思う部分を引っ張り出して練習すると良いです。
慣れてきたらどんどん時間を伸ばして、スピーチ全体を一通り音読できるようになることを目指してみてください。
TEDの場合は実際に話者が話をしている場面を見ることができますから、どのような表情で、どのような間を取りながら、どのようなイントネーションで、あるいはどのような身振り手振りを交えながら話しているかまで具体的に見ることができ、気持ちを想像しながら音読することができるというメリットもあります。
TEDの映像は無料のアプリでも入手することができますし、同じく無料の動画サイトでも字幕付きで多く投稿されていますから気軽に簡単に触れることができる、というのもおススメの理由です。
他には、映画やドラマのセリフを活用しても良いでしょう。
感動したシーン、笑ったシーン、悲しい気持ちになったシーンなど、あらゆる印象と思い出が詰まったセリフを活用することで、無味乾燥で苦痛を伴う作業としての音読を回避することができます。
書店に行けば映画などのセリフを音読用に教材化して販売されているものもありますから、そこから探してもいいと思います。
ただし、一つご注意いただきたいのは、こうしたTEDや映画やドラマなどを活用した音読は、中級レベル程度以上の英語力を想定しているということです。
高校時代以降、あまりにも英語から離れてしまっている方や、習ったはずのことをほとんど覚えてもいないという方にはあまりおススメできません。
繰り返しますが、大切なことは素材となる英語を「しっかりと理解できること」が音読の前提です。
TEDや映画のセリフなどがとっつきやすいから手を出したはいいけれど、なかなかうまく学習に生かせていない方のほとんどは、スピーチやセリフをそもそも理解できていないという根本的な問題を抱えておられます。
ですから、もし英語の力が明らかに不十分であり、基礎からやり直しながら音読を通じて向上を目指したいと考えておられるならば、いきなりスピーチなどには手を出さないでください。
おススメは市販の高校生向けの教材です。
高校生向けと言っても大学受験を目指した難解で高度なものがあれば、誰でも気軽に読める物語やちょっとした小話のようなものを収録したものもあります。
その中からご自身にとって文法的にも意味的にも理解しやすく、興味深くもあり、やってみようと思えるものを選んでみてください。
そして必ずCD(またはダウンロード可能な音源)が付属されたものを選んでください。
模範となる音声がなければ音読はできません。
英検やTOEICなどの資格取得をとりあえず目指しておられる方は、その対策教材をそのまま音読教材として用いることも有効です。
特に社会人の方にはTOEICを受験される方が多いと思いますが、ご自分が目指しておられる点数、つまりご自身のレベルに応じたCD付きの教材を使ってみてください。
私も社会人の方々にTOEIC指導をしていますが、対策教材を用いてたくさん音読をするよう指導しています。
最後に英語教師の音読素材ですが、これはもう何でもいいと言わざるを得ません。
「何でもいい」と言うと語弊があるかもしれませんが、生徒にはあらゆるジャンルの英語を読ませたり聞かせたりするばかりか、クラスルームイングリッシュとして指示を出したり励ましたり、褒めたり叱ったり、教師自身の意見や考えを英語で生徒に伝えたりと、その使用の幅は無限に広いですから、あるジャンルや分野に特化した素材に偏るわけにはいかない、ということです。
生徒との接触という意味では、学園物の映画やドラマもいいでしょう。
授業での解説という目的のためには、先にも述べたTEDで論理的な説明の仕方を学ぶこともいいでしょう。
生徒を励ましたり応援したり、褒めたり叱ったりという意味では、スポーツを扱った青春映画などでもいいでしょう。
もちろん、英語教師とはいえ自分の英語力に不安を持たれている方も多いと思いますから、いきなり映画などに飛びつく前に、まずは教科書を音読素材とすることも有効です。
授業での解説などにも直結しますから、その意味でも教科書は有効と言えるはずです。
ちなみに私は、映画の中で登場する大統領のスピーチとか、ビジネスマン向けの市販の音読教材とか、動画サイトに集められた名言集とか、気に入ったあらゆるものを音読の素材としています。
政治を語るニュースのコメンテーターのセリフを音読することもあります。
どのような素材の中にも、「これは自分のものにすると生かせる」と思えるものは転がっているものです。
素材探しのときには、自分がそれを喋っている人間だったらと置き換えて、「よく理解でき、かつ使えそうかどうか」という視点で探してみてください。
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