英語音読指導の手順5
英語音読の手順⑤(音読の効果を確認する)
リッスン&リピートからRead and Look Upまで、多くの音読活動をご紹介してきました。
実際に授業でそれらを実践すると、文章の長さによっては50分間では足りないかもしれません。
その場合には次の授業に持ち越しても構いません。とにかく最後までやり切ることを大切にしてください。
●ディクテーション
ディクテーションもまた、最近流行している訓練方法です。
しかしこれもやはり、その意味を間違えてはいけません。
ディクテーションとは、一言で言えば「書き取り」であり、CD音声を流して聞こえてきた英語を声に出すのではなく書き取る活動です。
当たり前のことですが、きちんと書き取るためにはきちんと聞き取ることができなければなりません。
これもシャドウイングと同様に、いきなり取り組むのではなく、多くの練習を経て最終的に聞き取ることができるようになっている(はずの)状態をつくり、そのリスニング力の確認のために行うものです。
このときもやはり、「だって生徒はすでに何度も暗記するくらい読んでいるのだからその記憶だけで書き取ることもできるではないか」と思われるかもしれません。
もちろんその通りなのですが、暗記したことを思い出して書き取ることが重要なのではありません。
自分が音読によって発話することができるようになった英語を、自分の発話と同じように聞き取ることができるということが重要なのです。
生徒にとっては、「あれだけ練習しただけあって、さすがによく聞き取ることができる」と感じながら書き取ることが大切なのです。
「言えるものは聞ける。言えないものは聞けない」
これが発音とリスニングの間の包含関係です。
この関係を実感するための活動としてディクテーションはあるのだと伝えてください。
やり方としては、CD音声をフレーズごと、または一文ごとに切りながら流してください。
一旦切ったところで紙に書き取らせます。
このときに重要な指示が一つあります。
教師がCDのストップボタンを押すまでは、決して手を動かしてはいけないと伝えてください。
意味のまとまり、または一文全体を聞き取り、何を言っているのか理解した上で、その理解したものを書き取るイメージで行わせてください。
なぜなら、CD音声を流しながら書き取らせてしまうと、音ばかりに注目してしまい、文法的な成り立ちや意味の流れへの意識が薄れてしまうからです。
全体を確実に聞き取り理解し、それをその理解のまま書き取る、という癖をつけさせてください。
CDを流し、止め、生徒が書き取り、続きを流し、止め、生徒が書き取る。
これを最後まで繰り返して終了です。
書き取ることができなかった箇所はリスニング力が不十分なところですから、家庭などでそこを重点的に練習し直すように伝えてください。
●通訳読み逆バージョン
英語習得において最も難しいとされるのがスピーキングです。
このスピーキングができる実感を持たせるために、通訳読み逆バージョンを行います。
先の通訳読みでは、英語を日本語の意味に直していくという活動を行いました。
今度は逆に、日本語を英語に直す活動です。
これも、ペアで行わせてもいいですし、全体で同時に行っても構いません。
私の場合は時間がないときは全体で行うようにしています。
生徒が全員前を向いて、自分が英語を喋っているという誇らしい顔を見ながら行うことができるのも理由です。
やり方はシンプルです。
教師が日本語を読み上げ、生徒はスクリプトを一切見ずにそれを英語に直すだけです。
これもやはり、生徒はすでにほとんど英文を暗記していますから決して難しいことではありません。
そして暗記しているから意味がないのではありません。
自分の言葉として喋るイメージを持たせていれば、他人の英語であっても自分の英語になることができるのです。
(母語話者すら日々の繰り返しの練習によって自分の言語力を磨くことについて以前に触れました。まさにそれと同じ理由です。)
●英借文という自由発話
いよいよ大詰めです。
音読授業の締めくくりとして、自由発話を行います。
自由と言っても、使う素材は音読で繰り返し扱った素材です。
たとえば
Mr. Jones is a teacher who teaches English at ABC high school.
という文はすでに生徒は習得しています。ここで、
「山田さんはDEF高校で理科を教える先生です」
などと投げかけ、これを発話させます。
ほぼ間違いなく生徒たちは
Mr. Yamada is a teacher who teaches science at DEF high school.
と発言することができます。
これは完全な自由発話ではないのですが、音読によって身に付けた英文をもとにすることで、内容が変わってもきちんとした英語を作ることができることを実感させることができます。
その意味で英作文とは英借文であって、音読によってベースとなる借り物としての英語を身に付けておくこと、つまり完全なる真似の英語を身に付けることの重要性を分からせることができるのです。
●ラスト一回のリスニング
ここまでの活動が全て終わったら、最後に一回だけ、練習してきた英文を流します。
生徒たちはただ静かに、音声を聞くだけです。
そして尋ねてください。
「授業が始まる前と今とでは、聞こえ方は同じですか?」
同じと答える生徒は一人もいないはずです。
これだけ練習したのだから全部正確に聞き取ることができて当たり前、と生徒たちも思うでしょう。
しかし大切なのは、それだけの練習によって聞き取ることができるようになった英語が増えたこと、英語の語順に従う意味の流れのリズムやスピード感や感性が少しでも身に付いたこと、そしてそれらが総合的な英語力の向上に貢献してくれることに気づかせることなのです。
ともすれば生徒たちは、練習したことのない初見(聴)の英語を読んだり聞き取ったりできなければ意味がないと思うかもしれません。それが入試などの試験で求められることだからです。
しかし、それができるようになるための訓練として、音読はあるのだとしっかりと伝えてください。
まとめ
このように、音読と一言で言っても、その方法は多岐に渡ります。
そしてその一つ一つに対して、「何を目指して行う音読か」ということを明確に示し、意識させ、段階的に総合的な力を身に付けさせていくことが重要です。
これらを全て行えば、50分間の授業などあっと言う間に終わってしまいます。
50分間では足りないこともあります。
だから、5分や10分程度音読させて「今日はよく音読をやった」などと思わずに、やるなら徹底的にやってください。
生徒の喉が枯れ果てるくらいやり込み、最後のラスト一回のリスニングにまでたどり着くことができれば、たった50分間であっても、生徒たちにその重要性を認識してもらうことはきっとできます。
そしてその認識が持てるからこそ、今後も継続して音読をやってみようという気にさせることもできるのです。
中には、「今日は授業であんなに音読をやったのだからもう十分だ」と思ってしまう生徒もいるかもしれません。
そう思わせないように、音読は授業以外でも毎日欠かさず行ってこそ本当に効果が表れるのだということを強調してください。
ここまで述べてきた音読は、教材と音源さえあれば授業の外で行うことも十分に可能です。
音読のための環境作りに関する記事を別途書きましたが、その内容も踏まえて、日常的な音読環境の中で十分な音読を行うことの重要性を伝えられてはじめて、音読授業の価値が生まれますし、それを体現した生徒の英語力は飛躍的に伸びていくのです。
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