英語音読指導の手順1
英語音読の手順①(発音にとことんこだわる)
英語を音読しろと言われたとき、どのような音読を思いつきますか?
あるいは、生徒に音読させるとき、どのような音読方法を用いますか?
たとえばCDや教師による模範音声を聞いて、それに続いて同じことを声に出して言う、いわゆるリッスン&リピートを思い起こされる方は多いでしょう。
流れてくる音声に付き従って読む、シャドウイングと呼ばれる音読法を授業で実践されている方もいらっしゃると思います。
では、それらの方法で音読を行ったり生徒に行わせたりするとき、大切なことは何でしょうか?
もちろん、広い意味では「声を出して読むこと」が音読であり、リッスン&リピートもシャドウイングもそのための方法ではあるのですが、単に声を出しさえすれば良いというわけではありません。
それぞれの音読方法に応じて、何を意識して何を獲得することを目指すのか、ということを明らかにしておかなければ、音読の効率は上がらず、またそれほどの効果も期待できません。
そもそも人が言葉を話すとき、その発話が成り立つためには大きく二つの要素が折り重なっています。
一つは、発音が正しいことです。
単語の発音、語と語の音の連結や消失、息継ぎのタイミングや強勢や文全体のイントネーションも含めて、一連の発音上の流れが正確に出来上がっていることです。
もう一つは、自分が喋っていることの意味を理解していることです。
何かを発言する際、意味も分からずに話すことはありません。相手に何を伝えようとしているかをきちんと踏まえた上で、それを伝達するために相応しい意味を語や文法に乗せているはずです。
その時々の内容や感情によってスピードや強弱が左右されることもあるでしょう。
そういうものも踏まえているからこそ、文としてのイントネーションも正しく成立するのです。
音読をするとき、最終的にはこれらのポイントを体得し、自分の英語として音読することができることを目指さなければなりません。
しかし、「ただ声を出して読む」という漠然とした認識のままでいてはなかなか上達しません。
リッスン&リピートは何のために行うのか?
シャドウイングは何を意識することが大切なのか?
それぞれの方法にしっかりと意味付けをして音読を行うことが必要です。
「50分間まるごと音読」の実現とその意図
私の音読授業(特に高1・2年生)では、音読方法とその意味はもちろん、その量にもとことんこだわります。
50分間ほとんどまるごと音読に費やし、終業のチャイムが鳴るころには喉がカラカラに乾いてどっと疲労感が襲ってくるほど音読させます。
(音読授業に限っては、特別に途中でお茶や水を飲んでもいいことにしていますが)
これには、授業を通じて音読のやり方そのものを生徒に定着させる意図があります。
音読は確かに大切な活動ですが、授業では不十分であり、各自の家庭などでの取り組みが大きくものを言います。
そのためにはやり方が定着していなければなりません。ぐったりするほど音読させて音読のやり方と重要性を徹底的に教え込むのです。
ここから先の記事は、そのこだわりも含めて、「50分間まるごと音読」を実現する方法としても活用いただければ幸いです。
まずは発音を徹底的に鍛える
音声を本来の姿とするのが言語ですから、まずは発音を鍛える音読から始めます。
なお、音読素材の英文を生徒は完全に理解していることを前提としています。
①リッスン&リピート
冒頭から述べているリッスン&リピートは、とにかく発音力を身に付けるために行わせます。そのことを生徒にもきちんと伝えましょう。「今から発音を鍛えます。これからやる音読はとにかく正しく発音することを意識してください」と。
また、詳しくは後述しますが、英語の発音においては「絶対にカタカナ発音を意識してはいけない」ということも強く指導してください。
(発音が分からない単語や難しい単語などにカタカナで読み方を書かせる指導者がいますが、そうやって英語の発音から目を背けて日本語の音に頼るような逃げ腰の姿勢でいては生徒の英語力は絶対に伸びません。また、カタカナで読み方を書いた市販の単語帳などもあきれるほど多く見受けられますが、そのような教材は使用すべきではありません。)
やり方としては、CDを流しても良いですし、ご自身の発音に自信があるのであれば自らが模範音声を示してもかまいません。
リピートさせる箇所については、意味の句切れごとでも構いませんし、一文まるごとでも構いません。それは文の難易度や長さ、そして生徒の力量に応じて判断してください。
スクリプトを見せながら模範の音声を聞かせ、それと同じ発音ができることを目指して繰り返し練習させてください。
はじめのうちはゆっくりでも構いません。
またこのとき、たとえばLとRはどのように発音するのか、THとSはどう違うのかなど、要所で必要に応じて説明したり練習させたりしながら、可能な限り模範音声に近づくことを目標としてください。
音の連結や消失についても指導を忘れてはいけません。これについても詳しくは後述します。
英語の発音に慣れていない生徒たちは、どうしても舌が回らなかったり、言い詰まってしまったり、カタカナ読みによって英語らしく発音できなかったりします。
リッスン&リピートを繰り返すことで、少しずつこれらの問題を解消してください。
まずはきちんと英語の発音として口や舌が動くようになることを目指すのです。
「音節」の理解から連結や消失を指導する
文章を正しく発音することを目指すにあたり、知っておくととても役に立つことがあります。
それは英語と日本語の「音節の違い」です。
たとえばorange juiceを発音してみてください。
カタカナ読みをした場合、「オ・レ・ン・ジ・ジュ・ー・ス」と7音節あります。
ところが実際の発音ではor・ange / juiceと、たった3音節しかありません。
つまり、音節を知らずにはじめから「オレンジジュース」という、実際にはありもしない7音節すべてを言おうとすると、まるで正しい英語には聞こえなくなります。
逆にリスニングでは、無いはずの7音節を想定するあまり、速くて聞き取れないという錯覚に陥ってしまいます。
そういう意味では、英語は速いのではなく、短いのです。
カタカナ発音を避けるべき理由の一つはまさにここにあります。
「オレンジジュース」というカタカナを中心とした音などそもそも存在せず、あくまでor・ange / juiceの3音節が発音すべき(聞き取るべき)「英語の」音であると知っておくことで、ぐっと英語らしい発音に近づくことができるのです。
音の連結や消滅についても同じことが言えます。
たとえばHave a good day.を言うときに、「ハヴアグッドデイ」とカタカナでは想定しますが、実際にはHaveとaが連結し、goodのdは消滅し、「ア」や「ド」の音など聞こえず、想定した音よりもはるかに短くしか発音されません。
(そもそもgoodのdは「ド」ですらありませんから、はじめからカタカナ発音などやはり役に立たないのです。それどころか障害でしかありません。)
「英語は速いから言いづらい」とか、「リスニングはスピードが速くて聞き取れない」と悩まれる方が多いのですが、そうした方々の大半は、英語と日本語の音節の違いや、連結や消失を理解していないことが多いです。
だから、リッスン&リピートによって発音指導をする際、上記のような音節をはじめ連結や消滅といった音声的現象について理解させながら練習させた方がはるかに実践的で、確実に発音力とリスニング力を高めることに繋がりますから、この指導を適宜取り入れるようにしてください。
音読やリスニングは実技でありながら、学習者にとっては知識(音節・連結・消失)として知っておくことも大切なのだと理解した上で、まずは発音から音読指導に臨んでください。
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