世界は比喩でできている

世界は比喩で出来ている

世界は比喩でできている

 

言語を勉強していて面白いと思うことの一つに、「比喩」があります。

 

たとえば「彼はライオンのように強い」とか「あいつはスカイツリーのように背が高い」とか、何かにたとえた表現のことです。

 

単語や文法項目の数には限りがあるけれど、人が表現したい状況や気持ちは無限大です。

 

だから、「彼は強い」という一つの事実を表す場合にも「ライオンのように」とか「英雄のように」といった比喩を使うことで、彼の強さに対するその人の受け取り方や感情をさまざまな形で表わそうとするわけです。

 

比喩はその人の個性と言ってもいいかもしれません。

 

ところが、よく考えてみると、誰もが当たり前に使っている表現でも「え、それって比喩?」と思えるような表現が驚くほどたくさんあることに気がつくことがあります。

 

 

人間の身体的経験が比喩を生み出す

 

たとえば、買い物に行って商品の値段を見た時に、「これ高いなぁ」と言いますね。

 

実は「金額が高い」という意味での「高い」は比喩なのです。

 

比喩表現がそもそもどこから生まれるかというのは、人間の身体的体験です。

 

実際にライオンと戦ったことはなくても、ライオンが他の動物を狩る姿やたくましい体つきなどを見たり雄叫びを聞いたりすることで、視覚や聴覚体験的にその強さが分かりますね。

 

そこを引き合いにして「ライオン=強さ」という認識を持ちます。それを利用するのが比喩なのです。

 

では「お金が高い」の「高い」はどこからきたのかというと、「お金が実際に積み上がったときの高さ」、ということになります。

 

金額が数字的に高いという意味ではありません。なぜなら数字そのものは本来「大きい」と表現されるべきだからです。

 

ときどきテレビや映画などで、積まれた札束が高くそびえる様子を目にすることがあります。

 

具体的な金額は分からなくても、高く積まれているお金は金額的にもかなりの高額であることは明らかですね。

 

その認識から「お金が高い」という比喩表現が生まれました。

 

「高くそびえるお金の山」を見て圧倒されるようなイメージが持てるからこそ「お金は高い」と言うのです。

 

 

英語における「高給」の比喩

 

「「給料が高い」の「高い」はなぜhigh?」という記事でも触れましたが、英語で「高額の給料」のことをhigh salaryと言います。

 

large salaryとかexpensive salaryとは言いません。これも比喩です。

 

salary「給料」はもともとsalt「塩」からきています。(詳しくは上記別記事をご覧ください。)

 

古代ローマにおいて、労働の対価として人々が手に入れていた塩は、手に入れば入るほどどんどん高く積み上がっていきます。

 

この光景を指して「高く積み上がった塩」=「給料の多さ」ということで、現在でもhigh salaryという表現が生きているのです。

 

積み上がる「高さ」そのものをlargeとかexpensiveで表現することはできませんから、そのことからもhigh salaryでなければならないことがうかがえます。

 

 

「温かい人」も比喩

 

「あの人は温かい」はとても面白い比喩表現です。

 

「温かい人」は優しいとか親切とか思いやりがある人という意味で、決して体温が人より高いことを表すわけではありませんね。

 

ではなぜ「温かい=優しさ・親切・思いやり」なのでしょうか?

 

これは私も含めて誰もが生まれた頃の話にまでさかのぼります。

 

生まれたばかりで自分一人では何もできない赤ん坊は、常に母親や父親をはじめとする家族や周りの人たちの腕に抱えてもらいます。

 

抱いてもらうことは愛されている、大切にされていることの表れであり、しかも実際に腕の中で肌の温かさ(文字通り体温)を感じていますから、実際の温かさと愛情を同時に感じていることになります。

 

その体験が、成長してからも、温かいことは愛があることなのだという記憶として残っているため、「人のぬくもりは愛情」という比喩が生まれたのです。

 

その逆に、冷酷で不親切な人を「あの人は冷たい」と言って表現することができるのも、抱かれることによる愛情体験の裏返しということで、非常に面白い比喩表現だと言えます。

 

 

比喩は国や文化を超える

 

もっと面白いのは、こうした人間の根本的な部分にかかわる比喩表現が、国を超えて世界中で通用する表現だということです。

 

英語でもa warm person「温かい人」とかheart-warming「心温まる」という表現が存在します。

 

私たちが日本語で使う比喩そのままに表現しても相手が理解してくれるというのは、なんとも素敵なことではないでしょうか。

 

極端な例かもしれませんが、次のような話もあります。

 

外国から日本にやってきたある労働者が、上司に冷たくあしらわれて腹を立てました。

 

彼は同僚にカタコトの日本語で「アノヒト ココロ レイゾウコ」(あの人の心は冷蔵庫だ)と愚痴を言ったそうです。

 

もちろん人間の心が実際に冷蔵庫であるわけはありません。

 

でも彼が言いたいことは分かりますよね。彼が悪く扱われた背景が見えてくるようです。

 

そしてこれは、国も文化も全く異なるのに、物事への感じ方には全く同じものがあり、かつそれが自国の言葉でも言語化されていることを示してもいるのです。

 

 

英語の単語や文法には「核」があり、これを理解することでより本質的に英語を学ぶことができる、というのは今や当たり前のように言われるようになりました。

 

比喩表現においても、基本となる「核」、つまり万人に共通する身体的経験とそこから生まれたイメージがあり、だからこそ、それが国や文化を超えてまで共通の表現として存在することができるのです。

 

 

比喩を見つめるような視点を英語指導にも取り入れる

 

比喩をはじめとする人間の言語活動は、身体的な体験に基づいて生まれている、だから言葉の背景には必ず人間がいて、そして言葉には必ず心が宿っている。
 
このような視点から言葉を研究する姿勢はとても大切です。

 

当サイトにある様々な記事をお読みいただいてもお分かりいただけるかと思いますが、私は英語について考えたり解説したりするとき、常にこの視点に立っています。

 

従来の英語教育は、あくまで形の規則性、ルールとしての文法という視点から指導するものでした。

 

その裏側に人間がいるという当たり前の視点が抜け落ちていたのです。

 

文法と単語さえあれば、あとはそれを上手く組み合わせることで無限に文章ができあがる、という考え方に偏りすぎていたとも言えるでしょう。

 

しかしそれはありえないのです。

 

人間の体験やそこから感じた「気持ち」がなければ、「あの人は温かい」などの比喩表現は絶対に生まれないからです。

 

言語は機械ではありません。それに、言語を機械的に考えていては例外と呼ばれるルール違反のことがらを説明することもできません。

 

ルールから外れてるから例外、という扱い以上にはどうすることもできないというのが今までの(あるいはひょっとすると今でも)多くの英語指導者の考え方でしょう。

 

しかし、人間の「気持ち」が言語を作り上げるという視点に立つとき、決まり切ったようなルールも例外と呼ばれるものも、何らかの人間的な理由があるから、その理由を突き詰めることで全てのことがらは例外なく説明できることになると私は考えます。

 

比喩はもちろん、イディオムや慣用表現の由来なども探ってみると、人間の営みと彼らの気持ちがよく見え、いっそう英語に面白さを感じることもできるものです。

 

何の意味も宿さない言語は存在しないことを実感し、深みのある英語指導に繋げてゆくことを目指して、まずは多くの比喩表現から向き合ってみてはいかがでしょうか

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