Have a good one. のススメ
別頁でGood morning.の本当の意味(記事を読むにはこちらをクリック)というテーマで解説をしましたが、本項ではまた別の挨拶表現を取り上げてみたいと思います。
ここで扱うのは、誰もが教わるGood morning.などとは逆に、日本の学校の英語教育現場ではほとんど皆無と言っていいほど教えられていない、しかし大変使用頻度が高く使い勝手も良い便利な挨拶表現です。
日本の教科書に登場しないHave a good one.
仕事柄、私は英語のネイティブスピーカーと顔を合わせることがよくあるのですが、親しくしてもらっているニューヨーク出身のあるアメリカ人の方と会うとき、彼は去り際に決まって次のように言います。
Have a good one.
彼は毎回、例外なく絶対にこれを言います。もちろん彼だけでなく、他の英語ネイティブスピーカーの発言を聞いても、あるいは私の個人的なアメリカ滞在経験を思い出しても、この一言は日常的にありふれた挨拶として頻繁に交わされているものであることがわかります。
しかし、私はこれを今まで、日本の英語の教科書の中で見たことは、覚えている限り一度もありません。
Have a good one.とはどういう意味なのでしょうか?
そして、なぜ日本の教科書には登場していないのでしょうか?
代名詞oneの多様性
別れ際の挨拶として馴染みがあるのは、Have a nice day.「良い一日を」やSee you.「またね」などですね。
これらは日本の教科書でも度々出てくるので、あまり英会話に触れたことのない方もよくご存知だと思います。
では、教科書では登場しないけれど、とてもよく使われるHave a good one.とはどういう意味なのでしょう?
この表現が面白いのは、そして同時に日本人的には少し分かりづらいのは、oneが使われているところです。
このoneは代名詞で、いろいろな名詞を受けて幅広く使うことのできるとても便利な単語です。
とりあえず、oneが使われていない表現をいくつか見てましょう。
まずHave a nice day.です。これは「良い一日を」という意味ですから、出かけるときや日中の早い時間帯に用いるのが普通です。
次にHave a good evening.とHave a good night.です。今度は「良い夜を」ということですから、午後から遅い時間帯にかけて言ったり、あるいは寝る前などに「おやすみなさい」の意味で用いたりするのが普通です。
これらの表現は、使うことのできる時間帯がある程度限られていると言えます。
ではここで、様々な名詞を受けるoneが、day、evening、nightなどを一手に引き受けてくれるとしたらどうでしょう?
時間帯に関わらず、いつでもHave a good/nice one.となりますね。
そうです、oneは汎用性が高いため、Have a good one.は時間帯や状況にかかわらずほとんどあらゆる場面で用いることができ、逆に受け取り手にとっては、状況や文脈に応じて多様に解釈することができることになるのです。
朝出かけるときにHave a good one.と言われれば「良い一日を」に解釈できますし、夕方に言われれば「良い夜を」に解釈できる、ということです。
他にも、週末であればHave a good weekend.、休暇前であればHave a good holiday.などの解釈も可能ですね。
さらに、時間に関係する場合以外にも、たとえばこれからあなたが旅行に出かけるとして、その出発のときに言われれば、Have a nice trip.「良い旅を」に解釈することもできます。
パーティーに参加するときであれば、Have a nice party.「良いパーティーを」と受け取ることもできるでしょう。
oneが何を指しているのかというのはその時々の状況によって変わります。
逆に言えば、状況によって何でもoneにその意味を持たせることができるということでもあるのです。
だからこそ便利であり、日常会話レベルで頻繁に使用される理由となり得ているわけですね。
なるべく初期から導入したいone
では、このような便利な表現が日本の教科書で扱われず、日本人の英語学習者の間に浸透していないのはなぜでしょうか?
それは恐らく、oneのカバーする範囲が多岐にわたりすぎるため、慣れないうちは一体何のことを言っているのだろうと混乱や戸惑いを生むことがあるからではないかと考えます。
ほとんど文脈もないのに、とりあえずHave a good one.と言われることも少なくありませんから、oneの抱える曖昧さに面食らうことがあるということも理由の一つになるでしょう。
しかしだからと言って、こんなにも便利な表現を教えない手はありません。
間違いなく生きた英語であるというのはもちろん、高校英語では代名詞oneを当然のごとく教え、それどころか、ある文中におけるoneは何を指しているか、空所に入れるのに適切な代名詞は何か、などと試験でその意味や使い方を問うことすら平気で行われているのです。
大切なことは、扱いづらいから、慣れるのに時間がかかるから教えないのではなく、生徒が意味や使い方を理解し、慣れるように仕向けて行くことです。
中学での初期の挨拶指導では、Have a good day.、Have a nice trip.などをまずは教えます。
そしてそれらが十分に身についた頃に、先のような解説でもってoneのはたらきを教え、Have a good one.が使える生きた英語であることを教え、日ごろから使わせるように指導すればいいのです。
これが難しいことであるようには決して思えません。
そして、そうすることで、後の高校英語で学習する代名詞oneの理解にも結びつけていくことができるでしょうし、今後学習者の方々が日常会話におけるHave a good one.を抵抗なく受け入れ、無理なく自然に使用することができるようになるという期待も生まれるのです。
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