教科書の外の英語

英語の婉曲で伝える「優しい」心理2

英語の婉曲で伝える「優しい」心理2

 

前項(英語の婉曲で伝える「優しい」心理1)に引き続き、身近な婉曲表現の例を見ていきましょう。

 

 

お寿司屋さんは婉曲表現の宝庫

 

お寿司屋さんにある婉曲表現をご紹介します。

 

醤油を「むらさき」、お茶を「あがり」などというふうに呼びますね。これらはもともとお店側が、お客さんに失礼がないように店員同士で会話するために生まれた隠語(店員同士でしか通用しない遠まわし表現)でした。

 

「ネタ」、「シャリ」、「ガリ」などもこれにあたります。お店側のお客に対する配慮の姿勢がこうした言葉を生んだわけですね。

 

ただ、現在ではお寿司屋さんの隠語はすでに一般に広く浸透しており、お客である私たちも平気で使っていて、隠語とはもはや呼べないような状況になってしまっていますが、本来はお客さんが使うのはすごく不自然なことなのです。
(寿司職人さんの中には、今でもお客さんが隠語を用いることを快く思わない人もいるそうです。)

 

お寿司屋さんの隠語の中でも、特に「おあいそ」は、店員さんが「愛想がなくて申し訳ありません」と言ってお客さんに請求書を渡していた様子に由来する表現ですから、お客さんが「おあいそお願いします」というのもやはりおかしなことで、矛盾すらしているのです。

 

「愛想がなくてすみません」というのはお店側の礼儀ですからね。

 

これをお客側が使うと「こんな店には愛想がつきた。もう出ていくからお勘定よろしく」というキツい意味のものにとらえられるようです。

 

ですからお勘定の際にはそのまま「お勘定/お会計お願いします」と言うのがお客側の本来のマナーだということですね。

 

お寿司屋さんの隠語については英語表現があるわけではありませんが、隠語という婉曲表現は使う人が違ったら逆に不自然さや失礼さを生んでしまうこともあるということを示す興味深い例だと思います。

 

 

子どもに「死んだ」なんて言えない

 

次は誰かが亡くなったときの婉曲表現です。

 

まず、あなたの周りの誰かが亡くなった場面を想像してみてください。
そしてその誰かが亡くなったことを、たとえば小さな子どもに伝えなければならないような状況になったとしたら、どのような言葉を選びますか?

 

「死んだ」とはまず言わないでしょう。

 

「天国へ行ったんだ」とか「お星様になったんだよ」とか、子どもの気持ちを考えた表現を用いるのではないでしょうか。

 

大人同士でも、「亡くなる」、「他界する」、「天に召される」、「安らかに眠る」、文書では「逝去される」などの婉曲表現がありますね。

 

英語でも同じように、誰かが亡くなったという悲しい出来事を遠まわしに伝えるための婉曲表現があります。

 

pass away (out of this world)「他界する(この世から出て)」、rest in peace「安らかに眠る」、go to heaven「天国へ行く」、go to a better place「あの世(よりよい場所)へ行く」などです。

 

ストレートに「死んだ」と言ってしまうのは、英語のdiedも同様ですが、あまりにも配慮に欠けた言い方であることは十分に感じ取ることができることと思います。

 

 

ちなみに、「亡くなる」に直結するわけではないですが、英語で「さようなら」を表すGood bye.も婉曲表現の一つであると私は考えています。

 

これは(May) God be with you.「神があなたのそばにいてくれますように」という意味の祈願表現が短縮されたもので、広い意味では婉曲と言って差し支えないでしょう。

 

ぶっきらぼうに「さよなら」ではなく、相手を思いやった別れの言葉だからです。
(なお、Good morning.しかり、英語の挨拶がお祈りであることは別記事「Good morning.の本当の意味」で解説していますのでご覧ください。)

 

 

あえてカタカナにこだわる有名人もいる

 

最後に、次のような例もあります。

 

歌手の浜崎あゆみさんは自分の曲の全てに英語のタイトルをつけています。

 

このことについて、あるインタビューで「日本語のタイトルにしてしまうとあまりにもストレートすぎて意味が限定されすぎてしまう。英語のタイトルにすることでそのストレートさから遠ざけて、曲に対するイメージをぼんやりと、聴く人がそれぞれにイメージできるようにしたい」と言っていました。

 

不快感を回避するための婉曲表現とは少し違うかもしれませんが、英語という私たち日本人にとっては遠い国の言葉をまさに遠まわし表現として曲のタイトルに用いることで、聴衆の曲に対するイメージを柔軟なものにしているのです。アーティストとしての配慮と言えるかもしれませんね。

 

 

やはり心理を踏まえてこそ言語は実用的たり得る

 

このように、婉曲表現は人の気持ちを大切に考えることを前提とした、とても人間らしい言語表現です。

 

そういう人間らしさやあたたかみのようなものを感じ(させ)ながら言語を学習(指導)する姿勢も大切です。

 

文法指導は心理の指導、というスタンスを再三強調しているように、人ありきの視点で英語を学び、教え、形と形式的な意味だけにとらわれない節度ある言語話者を育てることを忘れないでください

 

単なる事実を伝えるためだけに単語や文法を無機質に学ばせるのではなく、相手を気遣った英語表現ができるように育ててこそ実用的な言語話者の育成と呼べるでしょう

 

これこそ、英語指導者として大切にしたい、正しい言葉との向き合い方なのです

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