英語の「過去形」を概念的に破壊することから仮定法の理解へ

英語の「過去形」を概念的に破壊することから仮定法の理解へ

英語を学ぶ多くの方々が、これまでに「過去形」という言葉に悪く言えば騙され、惑わされ、悩まされ、英語の理解を妨げられてきました。

 

それは、「過去形」の名称で呼ばれている動詞の形が、過去を全く表わさない文脈で用いられていたり、「~した」という日本語がまったく当てはまらない英文に出会うことが少なくないからです。

 

では「過去形」とはどのような意味を持つのでしょうか?

 

 

「過去形のはずなのに」という違和感を覚えてしまう二つのパターン

 

一つはWill you~? やCan you~? の助動詞が過去形のWould you~?やCould you~? になると丁寧になる、ということです。

 

Would you pass me the salt? 「塩を取っていただけますか」のような使い方ですね。「~していただけますか」は過去のことではないにも関わらず、過去形が用いられています。

 

 

もう一つは仮定法過去です。

 

If I won the lottery, I would buy a new house. 「もし宝くじが当たったら、新しい家を買うのだけど」といった文です。

 

これも、過去の話をしているわけではないにも関わらず、過去形が使われます。

 

このように、過去形が用いられた英文で、「なぜ過去形が用いられるか」と疑問に思われた方も少なくないのではないでしょうか。

 

これらの疑問のこたえを理解するためのカギは、過去形の本質にあります。

 

 

「過去形」の本質を理解する

 

過去形は、本質的には過去を表わすのではありません。

 

過去形が表すのは「距離を置く」ということです。言い換えれば「何かから切り離されている」ということでもあります。

 

そしてそこから大きく①「時間的な距離」②「心理的な距離」③「現実的な距離」へと枝分かれしていきます。例文を見ながら押さえていきましょう。
過去形の概念を破壊する 

 

①「時間的な距離」
I bought the book yesterday.「私は昨日その本を買った」

 

買うという出来事は発話時(今現在)の視点からみると過去方向に向かって離れた時間に起こったできごとですね。今現在から切り離された時間を表しています。

 

日本語でも「遠い昔」という表現があるように、終わったことは遠く離れたことだという認識があるためこのような表現につながり、結果的に「過去を表す」と解釈できるようになります。

 

そして「今現在と切り離されている」ということは「今現在と関係がない」ということでもあり、そこが「今現在と過去がつながっている関係にあること」を表す現在完了との決定的な違いにもなります。

 

読解の基本として述べておきますが、今見たような簡単な文章でも、過去形が使われているからといっていきなり「過去のことだ」と判断しないでください。まずは「買うという行為は距離が離れているのだ、何かから切り離されているのだ」というイメージで読んでみてください。

 

そして文末にまで目をやった時にはじめて「昨日」という過去の一時点を表す副詞が登場するため、そこで「あ、時間的に距離が離れている、今現在とは時間的に切り離された過去の出来事なのだ、つまり話し手は過去を表現したいのだ」と判断します。
(文脈的にはじめから過去の文であると想定できる場合にはこの限りではありません。)

 

まずは離れるというイメージを持って、それからどういう意味で離れているのかを文脈に応じて考えること。それが、過去形が使われた英文を語順通りに正しく解釈するための本来取るべきスタンスなのです。

 

 

②「心理的な距離」
Will (Can) you pass me the salt? 「塩を取ってもらえますか」をWould (Could) you pass me the salt? 「塩を取っていただけますか」のように、助動詞の過去形を用いることで丁寧な表現ができると学習者は習います。

 

これはもちろん、「塩を取っていただけましたか」という過去の意味で発言しているわけではありません。塩を取ってもらいたいのは今現在のことです。

 

ではなぜ過去形が用いられるのでしょうか?

 

それも「距離を置く」という観点から考えると解決します。

 

現在形でWill you~?と言うとき、これは相手の意志にズケズケと入り込むため少々キツいニュアンスになります。現在形はあまりにも直接的すぎて押し付けがましいイメージがあるわけです。

 

プレッシャーがあると言い換えることもできるでしょう。だから、相手と距離を取り、一歩引いた場所から言葉をかけるとそのプレッシャーが弱まり、相手も押し付けられている印象を受けなくなります。

 

目の前に顔を近づけられ、自分の間合に入って来られるとうっとうしいとか脅迫されているような印象を受ける一方、相手が離れてくれると落ち着いた印象になるというのと同じで、過去形には心理的に相手との距離を置かせるはたらきがあります。

 

だから結果的に丁寧さを表すことになるのです。この過去形の使われ方が「心理的な距離」ということです。

 

補足ですが、現在形だからと言って必ずしも「プレッシャー・あつかましさ」という悪い意味しか持たないわけではありません。「過去形=離れている」であるのに対して、「現在形=近づいている」と言うこともできます。そして「近さ」は「押し付けがましさ・圧迫感」の一方で、見方を変えれば「親密さ・親しみやすさ」としてとらえることもできます。

 

Can you~?は兄弟や友人などの親しい人間同士の間で用いられることが多いのですが、理由が2つあります。

 

ひとつにはcanが持つ「可能」の性質、つまり「相手の状況的に何かお願いを引き受けてもらうことが可能かどうか」を尋ねる配慮した言い方だからということ。

 

ふたつめは、現在形だからこそ相手との近い距離感、つまり「親しみやすさ」を表しているからでもあるのです。
(一方のwillは性質的に「意思」ですから、Will you~?の表現は「相手の意思に踏み込んであつかましい印象」を与えてしまいます。)

 

小さな子どもに対して用いる場合などでもCan you~?が好まれるのも同じ理由です。子どもにとって親しくあろうとする姿勢が表れるということですね。

 

「押し付け」なのか「親しみ」なのか、これは当然、文脈や対人関係などによって生まれる意味の違いです。「現在形だから絶対にあつかましい」というわけではありません。言語の裏側には必ず人間がいますから、そのことを忘れないでください。

 

 

③「現実からの距離」
日本語で「現実離れ」という表現があるように、現実から離れることは、非現実的なことがらを表すことになります。

 

現実から考えて到底起こりそうもないこと、ありえそうもないことに対する心情を表す文法が仮定法で、その仮定法に過去形が使われるのもその意味からです。

 

逆に現在形は現実に起こっていること、現実度100%のことを表します。
You are rich. You can buy that car.
「君はお金持ちだ。君はその車を買うことができる」
と現在形が用いられた場合は現実の話です。

 

ところが実際には貧乏で車なんて到底買えそうもない場合、現実離れを表す過去形を用いて
If you were rich, you could buy that car.
「もし君が(今現在)お金持ちであるなら、君はその車を(今現在)買うことができるのだけど」
と表現します。これが仮定法過去です。

 

「過去形が使われているから過去の話なのではないか」という疑問が混乱を生んでしまうのですが、実際には時間のことは関係ありません。あくまで「今現在の現実から離れている」という意味で、時間的には現在のことだということを理解してください。

 

形として過去形が用いられているため、この文法を仮定法過去と呼んでいるにすぎないのです。

 

 

「過去形」の導入を分かり易く

 

過去形と呼ばれる動詞の形は大きく三つの距離を表すことを見てきました。

 

(ところで②の心理的距離を用いた依頼表現については、「あなただったら~してもらえますか」や「わざわざやらなくてもいいことを私のためにやっていただけますか」という意味では③の仮定法であると言うこともできます。)

 

そしてその全てを同じ形だからという理由で過去形と呼んでしまうため、学習者の方々には困難な問題となって、特に仮定法を敬遠させてしまいます。

 

しかしこれからは、過去形とは「距離を置く」ものととらえ、これと向き合ってみてください。

 

そうすれば①②③いずれの場合も、結局は「過去形」という動詞の語形が抱える「距離」の意味の一貫性が受け入れられるはずです。

 

研究者の方々の中には「遠称形(えんしょうけい)」と呼んでおられる方もいらっしゃいますが、私は単に「距離形」とでも呼ぶようにすると分かり易くていいと思っています。

 

 

一般的には中学2年生で「過去形」を導入しますが、そのときに「~した」という日本語訳を中心に教えるのではなく、現在形の指導と同様、生徒が高校生になったときの混乱を避けるためにも、繰り返しになりますが、「距離が離れていること」をまず概念として強調し、そのイメージを持たせるようにしてください

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