時制の一致という不合理1

時制の一致という不合理1

時制を教えるとき、生徒を混乱に陥れる大きな問題に「時制の一致」があります。

 

「主節の時制の影響を受けて従属節の時制も決まる」ことが「ルール」とされているのが「時制の一致」です。

 

たとえば、She said, “I am a teacher.”という文(直接話法)から引用符(“ ”)を取り除くと、She said (that) she was a teacher.のように、彼女の発言を、彼女のセリフとしてではなく客観的に表現する文章(間接話法)になります。

 

このとき、主節の動詞saidが過去形であることの影響を受けて、従属節の動詞wasも過去形で表わされる、とされているのが「時制の一致」です。

 

 

ところが、多くの参考書にはこうした基本的な説明に続いて、多くの「例外」が列挙されています。

 

私が大いなる突っ込みを入れたいのがまさにここなのですが、この「例外」の多さときたら呆れるほどで、「時制の一致」が正しく起こらない文章の方が多いのではないかとすら思えるほどです。

 

そしてその例外によって、多くの生徒は混乱し、時制は難しいと嘆くことになってしまうのです。

 

ここでは時制決定の本質に迫り、生徒を混乱に陥れない考え方について述べていきます。

 

 

時制の一致の例外

 

一般に「時制の一致の例外」とされているものに次のようなものがあります。

 

例外1:「不変の真理を表す場合は時制の一致は起こらない。」
We learned that water boils at 100℃.

 

例外2:「現在も繰り返し行われている状態・動作の場合は時制の一致は起こらない」
She said that she goes jogging every morning.

 

例外3:「歴史上の事実を表す場合は時制の一致は起こらない」
Our teacher said that Mozart was born in 1756.

 

例外4:「仮定法が用いられる場合は時制の一致は起こらない」
He said that if he were a bird, he could fly.

 

主節と従属節の時制が噛み合っていないこのような文章が「例外」扱いされているわけですが、見ての通り、通常一般的に想定されるようなごくありふれた文章においてすら「時制の一致」は多くの「例外」を抱えてしまっています。

 

「時制の一致」が本当に正しい「ルール」であるならば、そんなおかしなことがあり得てしまっても良いのでしょうか?

 

この状況を考えるとき、「時制の一致」と呼ばれる「ルール」には、何らかの欠陥があると考えざるを得ません。

 

そしてその欠陥を修復しない限り、生徒の混乱を解消することもできないでしょう。

 

時制は英語において最も重要な文法単元の一つです。

 

だからこそ、「時制の一致」と呼ばれる項目について、しっかりと一貫性のある知識と考え方を持っておくことが大切です。

 

 

時制決定の本質を理解する

 

さて、「従属節の時制は主節の時制の影響を受けて決まる」とされるのが「時制の一致」ですが、ここで疑問が浮かびます。

 

主節の時制は一体どうやって決められるのか、という疑問です。

 

主節であれ従属節であれ、節の中に存在する時制はどちらも時制であることに変わりはありません。

 

ですから、主節を無視して「従属節の時制の決め方」のみを定めるこの「ルール」には大変な違和感を覚えます。

 

仮に従属節の時制が主節の時制の影響を受けるものだとしても、主節の時制の決め方が明らかにされないのであればそもそも文章の組み立てができません。

 

 

実のところ時制というのは、主節であろうが従属節であろうが全く関係なく、たった一つの単純な理屈に則ってのみ決定されるものです。

 

そしてそこには一切の例外は存在しません

 

そのたった一つの単純な理屈とは、「時制は常に現在を基準に決められる」ということです。

 

現在から見て過去の話なら過去形を、現在から見て現在の話なら現在形を、現在から見て未来の話なら未来表現を用いる。それだけのことなのです。

 

繰り返しますが、主節の時制も従属節の時制も現在を基準に決められます。そこには一切の例外はありません。

 

She said (that) she was a teacher.という上記の文章は、「彼女が言った」のは今から見て過去のことだから過去形、「その時彼女が教師だった」のも今から見て過去のことだから過去形が使われている。それだけのことなのです。

 

この単純な理屈を知らないために、多くの教師や、広く言って日本の英語教育界はShe said (that) she is a teacher.のような文章を「誤った英文」だと教えます。

 

しかしよく考えてみると、たとえば彼女が「私は先生です」と発言したのが昨日のことだとして、その発言内容を常識的に考えると「彼女はほぼ間違いなく今日現在も教師をしている」ことは容易に想像できます。

 

そうであれば、「彼女が言った」のは今から見て過去のことだから過去形、「彼女が教師である」のは今から見て今のことだから現在形を用いる。これは決して矛盾したことではありません。むしろ英語の理屈通りのことです。

 

つまりShe said (that) she is a teacher.は全く正しい英文なのです。
(もし何らかの事情で彼女が急に今日の時点で先生ではなくなってしまったのならこの英文は間違えていることになります。しかし常識的にはそんなことはあまりありません。)

 

補足しておきますが、She said she was a teacher.も、「彼女は今日現在も先生だ」という事実を含意していますが、話し手の心理としては「彼女はその時には先生だって言っていたのだから、たぶん今もそうじゃないかな」くらいの認識です。もしかしたら今は先生ではないのかもしれません。非常にあいまいです。

 

 

英字新聞などを読んでみると、このケースと同じ類の英文のオンパレードです。
The government said that they will・・・
「政府は・・・すると述べた」
「政府が述べた」のは現在から見て過去のこと、「・・・する」のは現在から見て未実現であるため未来表現、という「現在を基準」にした当然の理屈です。

 

これは参考書や学校の英語ではThe government said that they would・・・としなければ誤りとみなされてしまいます。

 

本当に誤りであるとすれば、そんな間違った英文が毎日新聞やニュースなどの形式的な文章の中で遠慮なく登場し続けるのは一体なぜなのでしょうか?

 

これは誤用が正式なものへと変化してきたといった類のものではありません。
はじめから正しいのです。

 

主節の時制がどうだから従属節の時制がどうこう、などという考え方が英語にははじめから存在しないことを表しているのです。

 

 

次項(「時制の一致という不合理2」の記事はこちらをクリック)では、先に挙げた「例外」を解決していきます。

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