留学=英語力の向上か?(後編)

留学=英語力の向上か?(後編)

中学英語の重要性と留学希望者との向き合い方

 

前編で、留学が必ずしも英語力の向上に十分ではないことがあるという話を書きました。

 

ここでは一方、留学をしたことで確かに大切だということがよく分かったことがら、結論から言えば中学レベルの基礎英語力の重要性と、これから留学を望む生徒との向き合い方について述べていきます。

 

 

基礎力の重要性も認識した思い出

 

現地に留学してから知り合った同年代の日本人留学生がいましたが、その中には中学英語程度の知識も曖昧なままで、私よりも滞在期間が長かったにもかかわらず、まるで英語力が身についていない人もいました。

 

内容は忘れてしまいましたが、留学当初、あるクラスで一人ずつ自分の意見を述べる機会がありました。

 

私が訪米するよりもずっと前から現地にいたその日本人留学生の番になったとき、その人の口から出てきた英語に私は驚愕しました。

 

ひどい言い草になるかもしれませんが、とても英語ではありませんでした。

 

これは英語ではないと、素人の私にもはっきりとわかりました。

 

全く何を言っているのか分からず、先生は私と目が合うと、お互い呆然として苦笑いをするしかありませんでした。

 

そのときの先生の困った顔と、何を言っているのかわかっていないことを自分でもわかっているその同胞の困惑した様子が今でも忘れられません。見ているだけでも辛い気持ちになりました。

 

そして私は思いました。簡単な意見を述べることもできないほど基礎力が身についていないと、どれだけ長い時間アメリカで暮らしたところで、英語力など何一つ向上しないのだと

 

(冷静に考えればそれは当然のことですね。全くわからない言語、たとえば私の場合はアラビア語やアフリカの少数民族の言語などをただ延々と聞いたり眺めたりしているだけでいつか自動的にわかるようになるとは思えません。勉強しなければわからないものはわからないまま、永遠に時間が流れるだけです。
それなのに、余談の余談ですが、意外とそんな当たり前のことが置き去りにされて聞き流すだけの教材などがなぜか流行ったりします。)

 

高校英語の重要性にはいつまでも気がつかない愚かな自分ではありましたが、それでも私は、中学英語の基礎力を頼りに必ず優れた英語力を身につけようとそのときに思いました。

 

 

大学卒業後、教壇に立つに際し、当時のあの光景を思い出しながら改めて考えました。

 

中学での基礎力を軸に、そこから高校英語レベルの文法をしっかりと学び、その上でこれを生かし、より高度な英語力の獲得を目指そうという意志をもって日本を飛び立つことが「正解の留学」ではないか。

 

だから自分の生徒が留学を希望するのならば、その方向性を示し、またそれを可能とするように指導しなければならないと。

 

 指導者の立場から見た留学

 

しかし、「正解の留学」という考え方を一指導者として持ってはいても、現実には生徒の留学への意志と行動をどこまで左右することができるかという問題は大変難しいものです。

 

これまでに述べてきたことを簡潔にまとめれば、「高校英語までの力があれば留学しても良く、そうでなければ留学は避けるべき」ということになります(もちろん人それぞれに状況も可能性も違うため、一概に言えないことは認めた上で、大まかな方向性としてということです)が、

 

高校入学時からすでに留学が学校のシステムとして決定している場合にはどうしようもありませんし、途中でいきなり留学したいと言い出した場合や、大学に進学してから留学したいと相談を受けた場合などでも、希望する生徒本人の意思は固いもので、彼らの英語力の現状や留学による英語力向上の期待値の高低にかかわらず、ほとんどの生徒は留学を実現するものです。(留学を希望する生徒のほとんどは経済的な条件などもクリアしていることが多いです。)

 

指導者として、「まだ基礎力が足りないから留学するな」と言う(ここまではっきりと言うことは稀ですが)ことへの心理的な抵抗もありますし、ひょっとしたら上手くいくかもというあまり根拠のない期待を抱くこともあります。

 

本人の意思を尊重することも当然大切ですし、留学という一大イベントだからこそ、現状がどうあれどうにか実現して成功して欲しいという思いも生まれるのが人情のようなものでもあります。

 

ただ、私がこれまでに指導してきた高校生たちの中で留学を実現した生徒の帰国後の様子を見てみると、留学期間は同じでも、英語力の大幅な向上が見て取れる生徒とそうではない生徒にはっきりと分かれることがよくわかります

 

そしてその違いは、もちろん現地での本人の努力に寄るところもあるのでしょうが、やはり指導者的見地からすると、繰り返し述べてきたように、留学前の基礎力の違い、そして高校英語の理解と定着度の違いであることは疑いようがありません。

 

 

このように、留学の問題はとても難しいものです。

 

留学をすれば英語を身につけるという夢を絶対に叶えられるとは限りません。

 

留学さえすれば英語力は身につくのだという期待は、逆に自ら英語を学び、向上させようという意志を忘れさせてしまうことすらあります。

 

しかし一方で指導者には、留学を実現させてあげたい親心や、留学によって思いがけず生まれる成功や、英語学習以外の様々な面で留学が与えてくれる学びへの期待もあり、本人の英語力の現状だけ切り取って安易に「やめておけ」と言うこともできません。

 

結局のところ指導者は、私の経験談のようなケースも踏まえて、留学におけるプラスの可能性だけでなく、リスクが存在することもしっかりと伝えた上で、生徒自身の気持ちと判断(家族の了承も含めて)に委ねるしかないのです。

 

リスクとは、中学英語の基礎力、高校英語のしっかりとした理解と定着、そしてこれを意識的に応用していこうとする姿勢、それがなければ英語力向上の面ではあまり期待できないことであるとはっきりと伝えるのです。

 

 

もしもあなたの生徒が留学を希望するのであれば、安易に「思い切って留学しなさい」あるいは逆に「やめておきなさい」と言ってしまうのではなく、今の生徒自身の力と意識を再確認し、留学による英語力の向上にどこまで期待が持てるか、あるいは留学のあらゆる面においてどのような可能性があり得るのかということを個別に鑑み、あなた自身が指導者としてまずは悩んでください

 

あなたが「この生徒は必ず成功する」と自信を持って言えるのであれば思い切って「行きなさい」と言うのもありでしょう。その逆もまたしかりです。

 

ただし多くの場合はそういうわけにはいきません。

 

あなたの考えも、先のようなリスクも、場合によっては留学を引き留めることが後に有益となる可能性があることなどもしっかりと生徒に(保護者にも)伝え、悔いのない決断ができるように支えてあげてください

 

 

(ちなみに私は、留学前に通っていた日本の学校の教師から、私のことをよく知りもしないのに「お前に留学は無理だ。うまくいきっこない」と言われたことがあります。
非常に腹が立ちました。その教師を見返してやろうとも思いました。思えばその反骨精神で留学を乗り切ることができた部分もあるのかもしれません。それを狙って意図的に言ったのではないでしょうが、教師の言葉を生徒はそれなりに抱え続けるものです。)

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