英語の現在完了形に関する生徒の疑問(知識編)

英語の現在完了形に関する生徒の疑問(知識編)

高校生の中には(ときには中学生の中にも)、私たち指導者が想定していないような疑問を投げかけてくる生徒がいます。

 

ともすれば「英語はそういうものだから考えても仕方がない」、「覚えておきなさい」と片付けてしまいたくなるような類のものも少なくありません。

 

しかし、彼らの疑問が英語のさらに深い理解へと導いてくれることも多くありますから、私たちはこれと真摯に向き合うべきだと私は考えます。

 

ここでは現在完了形に関する興味深い質問をとりあげ、その回答を通じて現在完了形を深く見つめてみます。

 

 

現在完了形についての不思議

 

現在完了形はhave+過去分詞の形式をとることで成立します。

 

このことについて、生徒から次のような質問を受けたことがあります。

 

「過去分詞は受け身の意味を表すはずなのに、どうして現在完了形では受動ではなく完了の意味を表すのですか?」

 

 

このとき、「have+過去分詞がセットだから過去分詞だけ単独で考えてはいけない」などと言ってしまいたくはならないでしょうか?

 

「have+過去分詞が現在完了形という形のルールだ」などと逃げてしまいたくはならないでしょうか?

 

もちろん、この場合には過去分詞だけ取り上げて考えてもあまり実用的ではないことは確かに伝えなければなりませんが、実際的な有用性は抜きにして、生徒の知的好奇心を満たすことは大切なことです。
別項でも取り上げていますが、指導者の信頼にも関わることです。

 

 

さて、「完了形」なのに受動を表す過去分詞が用いられるのはなぜでしょうか?

 

 

過去分詞の意味と完了形の歴史的変遷

 

「現在分詞」も「過去分詞」も、どちらもその言葉の意味と実態が噛み合わない最悪の文法用語であることをまずは知っておいてください。

 

分詞には「現在」「過去」が冠されますが、どちらも時制を持ちません。

 

現在分詞は能動を、過去分詞は受動を表すと教えることからも、やはり時制とは無縁の動詞の語形であることが分かります。

 

分詞における「現在」と「過去」は便宜的な名称であって実態ではないことを確認してください

 

 

さて、受動の意味を表す過去分詞ですが、目的語を伴わない自動詞の過去分詞の場合には受動ではなく完了の意味を表すことからもわかるように、過去分詞は完了の意味も表す動詞の語形変化です。

 

これは元来過去分詞が「結果」を表すはたらきを持つところに由来しています。

 

 

現在完了形のかつての形から見つめてみましょう。

 

現在完了形have+過去分詞は、かつてはS have O+分詞の語順によって表されていました。

 

たとえば、I have written a letter.が現在私たちが知るところの現在完了形の語順ですが、その形が確立する以前はI have a letter written.という語順だったのです。

 

つまり、「私は書いた手紙/書かれた手紙を有している」の意味だったのです。

 

「手紙の存在」は「私」が「書いた結果(完了)」であると同時に、「書かれた結果(受動)」でもあるため、完了と受動双方の意味に通じるようになった。これが過去分詞です。

 

そして、「私」は「手紙を有していること」よりも「手紙を書いたこと」を言いたいのであり、したがって本来の本動詞haveとより密接な意味関係にあるのはa letterではなくwrittenのはずであるという心理から、haveの隣に過去分詞writtenを持ってくる(have+過去分詞)という語順が確立していきました。

 

これに伴って、本動詞haveは完了形を導く助動詞とされ、過去分詞と合わせて一つの動詞句を形成するとみなされるようになったのです。

 

(ちなみに、かつてのS have O+過去分詞は現在のドイツ語にも見られる語順構造です。)

 

 

これが、受動の意味を持つはずの過去分詞が完了の意味を同時に持ちながら、なおかつ現代英語の現在完了形の形へと行きついた背景です。

 

 

なお、前項で現在完了形は過去と現在のつながりを意味すると述べました。

 

それは、もともと本動詞であったhaveを有する現在完了形の構造的意味においては、過去分詞つまり「完了した状態」を「現在haveしている(有している)」と解釈できることに基づいています。

 

文構造の成り立ちと意味の関係がこれで明らかになります。

 

 

「教える・教えない」の取捨選択を

 

ここまで説明することができれば、少し学力の高い生徒、また知的好奇心に溢れる生徒にとっては満足のいく回答が与えられるのではないでしょうか。
そしてきちんと疑問に答えてくれる指導者としての信頼も得られるのではないでしょうか。

 

ただし、このような知識は決して実用性が高いわけではありませんから、配慮は必要です。

 

先にも述べたように、知識と実用性は別物です。

 

このことは生徒にはっきりと伝えなければなりませんし、場合によっては知識の説明を省いた方がその生徒にとっては利益となることもあるでしょう。

 

誰に何をどこまで教えるかという問題は、日々直接彼らを指導する指導者の私見に頼らざるを得ません

 

そのことを認識し、「教えること」と「教えないこと」のバランスを考慮し、とりわけ多様な生徒を前にする授業などでは「教えないこと」も含めて、指導者に求められる「取捨選択」を大切にしてください

 

もちろん、取捨選択ができるようになるためにも、指導者自身が知識を求める姿勢も大切にしてください。

 

*追記

I'm done.(終わったよ)という表現に感じるモヤモヤ感の正体とは?

 

 

I'm done.という表現についてですが、be doneの形で完了を表している点が恐らくしっくりこないポイントではないかなと想像します。過去分詞が完了と受動双方の意味を抱えている背景は、説明した通りです。

 

そして昔の英語では、自動詞の過去分詞は完了の意味で(自動詞ですからもちろん受け身を表すことはできません)be動詞と共に用いられるのが普通でした。

 

品詞と文型の観点から言えば過去分詞は形容詞ですから、I am done.はSVCとして単純に成り立つため、このような使い方がされていたのではないでしょうか。(この点については私の想像です)

 

そしてbe doneの形で完了を表していたものが、やがてhave+過去分詞で表す完了形が確立していった歴史の流れの中で徐々に衰退していったのですが、表題のbe doneやbe finished、be goneなど、いくつかの馴染み深い慣用的な表現に限っては現在にも生き残っているものがあります。I'm done.はまさにその生き残りというわけです。

 

さらに言えば、I'm done.と同じ意味をI've done.で表そうとしても普通はできません。I've doneの場合のdoneは他動詞扱いされてI' ve done my work.のように目的語を通常伴います。それくらい、I'm done.は自動詞の完了形として、I've done.に取って代わられることを拒むほど確立&定着しているものと考えられます。

 

 

ちなみにHe's(is) gone.についても同じ理屈です。

 

余談ですが、古い過去分詞の強烈な生き残りのケースとして興味深いものがあります。それは「ローストビーフ」roast beefです。ビーフはロースト「されている」ものであるため、現代英語の活用に忠実にしたがえばroasted beefでないといけません。

 

ところが、ed語尾の活用が導入される以前は、roastは無活用で過去形も過去分詞もroastであったため、roast beefと綴るのが正式でした。そしてその名称があまりにも一般に定着したため、roastがedを伴うようになった後も、古い過去分詞roastが生き残り続けているわけです。

 

I'm done.やroast beefのように、現代英語の世界に見受けられる不思議な表現や語句は、こんなふうな「昔からの生き残り」が原因となっているものもあって、とても面白いと思います。

 

 

 

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