研究授業(模擬授業)後の講評を授業力アップにつなげるコツ
研究授業(模擬授業)後の講評を授業力アップにつなげよう
英語科教諭として採用されると、時々研究授業をする機会があります。準備に時間をかけ、本番が終わると、気を抜く暇もなく授業研究(講評)の時間となります。
このとき、指導者や同僚から自分の授業にたいして講評をしていただくことになりますが、そのアドバイスをどのように受け止めるか、というのが大切です。
単に、
「謙虚になって、先輩や周囲の人の助言に真摯に耳を傾けなさい。」
という、よくありがちな精神論を言っているのではありません。
そうではなくて、一人ひとりから得られた感想や助言を分析し、確実にそれを自分の授業力の向上につなげるためにはひと工夫が必要な気がするのです。
例えば、あるベテラン教師から次のように言われたとします。
「説明するとき、生徒達がノートをとっていて、先生の方を見ていなかったよ。そういう時は、“Look up.”などの指示を入れて、生徒の注意をあなたに向けさせないと、生徒が説明を聞き逃してしまうよ。ノートに書きながら、人の話は聞けないからね。」
この発言の中には、「先生が説明するときに、生徒が見ていなかった」「生徒はノートをとっていた」「注意を促す指示を入れるべき」「ノートに書く作業と、人の話を聞くことは両立しない」という4つの情報が含まれています。
真面目な先生で経験が浅いと、これらの情報すべてを消化しようとして、混乱することがあります。
それぞれについて異なる感想を頭の中で同時に処理するので、結局何をしたらいいのか分からなくなってしまいます。
「先生が説明するときに、生徒が見ていなかった」
→しまった。説明を聞いていなかったとしたら、あの後の練習問題が出来ないかもしれない。
「生徒はノートを取っていた」
→黒板には大事なポイントをまとめておいたから、自分の説明を聞いていなかったとしても、読み返せば大丈夫かも。でも、やっぱりダメかな。
「注意を促す指示を入れるべき」
→ひと言、言うべきだったなあ。
「ノートに書く作業と、人の話を聞くことは両立しない」
→そうか、書く時間と説明を聞く時間は分けないとな…。
実際の授業研究では、このような発言を複数の人から言われるので、頭が処理しきれなくなり、せっかくの他人からの評価が無駄になってしまいます。
「行動」だけに集中する
この中で一番大切なのは、最後の「説明する前には生徒の注意を促す指示“Look up.”などの指示をいれる」ということです。
つまり、他人からなんらかのアドバイスをもらった場合にフォーカスするべきは「行動」なのです。
もちろん、その「行動」をしなかった場合の良くない結果や、その「行動」をとらなければならない理由を考えることも必要ですが、そこを深く考えすぎると、たくさんの情報を処理しきれず、改善に結び付けることができません。
ですから、私がこのようなアドバイスをもらったら、
「明日から説明の前には“Look up.”という指示を必ず入れて、生徒が顔を向けてから話始めることを習慣づけよう。」
というただ一点だけを守れば、すべてを理解した上での行動をとることと同じ効果があります。
授業を構成する要素を分けて考え、そして「行動」
もう一つ、別の観点から他の先生からのアドバイスを受け止めてみましょう。
授業はいろいろな要素から構成されています。いくつか具体例を挙げてみますと、
- 見た目(清潔感があるか等)
- テンポ(間延びしたり、停滞したりしていないか)
- 字が見やすい(後ろの席の生徒まで、キチンと読める字を書いているか、色分け等)
- 言葉遣い、声の大きさ、分かりやすい指示
- クラスルームイングリッシュ力
- 教師自身の英語力(深く正しい知識や教養があるか)
- 教科の指導力(分かりやすさ、教材の選定・作成、文法事項の関連付け、学習事項全体からみたその時の学習内容の位置づけなど)
もちろん、それぞれの項目は完全に独立しているわけではありません。他の項目と関連していると考えるのが普通です。
教師自身の英語力があまりにも不足していると、指導力に影響が出てくるのは当然のことです。
これら一つひとつのレイヤー(層)が重なり合って、一つの絵が完成されるイメージです(図1参照)。
イラスト作成ソフトを使用された方なら、概念が理解しやすいかもしれません。下書きのレイヤー、輪郭線のレイヤー、背景の色のレイヤー等が重なり合って、あたかも1枚の絵のように見えています。
話を戻すと、アドバイスを受けた時にもう一つ考えることは、このうちのどの項目について指摘されたのか、を考える必要があるということです。
複数の人から異なることを指摘されたとしても、その根っこが共通のことがしばしばあります。
例えば、
「一つのアクティビティの時間が長すぎて、最後まで終わらなかった。」
「作業に時間がかかる生徒がいて、早く終わった生徒が飽きてしまった。」
という指摘を別々の人から受けた時、まず考えるのは何をしたらいいのか=「行動」です。
この場合は、例えば「一つのアクティビティに費やす時間を10分以内にする。」という行動をとります。そうすると、終わる時間が明確なので、早く終わった生徒もある程度は待てるはずです。
これだけでも、一歩前進です。
次に、それぞれの問題が、どの項目に属するのかをきちんと分析します。
今回の場合、どちらも「テンポ」の項目に属する問題ですから、一つの問題として捉えます。
「テンポ」に関して、もう一段上のステージに行きたければ、早く終わった生徒への対処を考えればよい、ということになります。
そのための「行動」は、
「早くできた生徒を指名し、黒板に答えを書いてもらう。」
です。これで、テンポに関する項目はかなり改善されたと考えていいです。(遅かった生徒は黒板の解答をチラチラ見ながら自分の答えの参考にするかもしれませんので、これも教育的な効果があるかもしれません)
このように複数の人から別々のことを指摘されたとしても、問題の根っこを探ることで問題を絞ることが出来ますので、より簡単に授業の改善につなげることが出来ます。
最初から満点の教師がいないのと同時に、0点の教師もいない
最初からパーフェクトな教師はいません。
しかしながら、誰でも他人に何かを説明する経験は、それまでの人生の中である程度積んできています。ですから、採用試験に受かるような人で、0点の人もまたいないのです。
ほとんどの人は、教師の経験が無くても「いいもの」を初めからもっています。無意識のうちに出来ているのですから、そのままでいいのです。
その一方で、それまでの経験の中でも身に着けられなかった項目もあるものです。
自分では気がつかないことを気づかせてくれた訳ですから、普段どんなに相性が悪い人であったとしても、欠点を指摘されたら、ここはむしろ「得をした」と思うべきなのです。
他人からのアドバイスに対して、
「偉そうにアドバイスをするな!」
「私だって一生懸命やっているんだ!」
というように、感情的になったり、深く悩みすぎるのはよくありません。
まずは、行動だけにフォーカスする。
次に、どの観点の問題なのかを分析して、異なることを言われていたとしても、根っこが同じなら、そこに意識を集中させると授業力のアップが短期間で可能となります。
特殊な才能を持った人以外は、並行して難しいことをいくつも処理できません。
授業をしながら、教育効果を考えて行動したり発言したりすることは、極めて難しいものです。
シンプルに行動して、考えて、また行動する、というサイクルを繰り返すことで、授業が上達するのだと思います。
もし、教育実習生の指導教官を任されたりするときは、このことを頭に入れて、取るべき「行動」をいくつか指摘することで、短期間での授業力の向上が見られるかもしれませんね。
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