英語授業における「乾いた土」を作っていますか?
新しく英語の文法を教える時の2つの方法とは?
英語文法を新しく教える時に、大きく分けて2つの方法があります。
ひとつ目は、ターゲットとなる文法事項を含んだインタラクションやスキットなどを通じて、とりあえず生徒に使用させながら身に着けさせる方法です。「帰納的な方法」と言えます。
もう一つは、先にターゲットとなる文法事項の理屈を説明してしまい、後に個々の用例にあたっていく、というやり方です。先ほどの帰納的な指導法と反対なので、「演繹的な指導法」と言えるでしょう。
実際の授業では、バランスよく2つの方法を使い分けることが望ましいのですが、それぞれのメリットとデメリットを認識することが大切です。
例:「帰納的な方法」で教える現在完了形(継続的用法)の導入
「帰納的な方法」で、現在完了形(継続的用法)を扱ってみます。生徒の心の声を【】に記入します。
教師 |
生徒 |
【生徒の心の中】 |
---|---|---|
*黒板に簡単に自分の年表を書く | 何がはじまるんだろう? | |
Look at the blackboard. I began to live in Osaka in 2015. Repeat. | I began to live in Osaka in 2015. | へー、そうなんだ。 |
*黒板を指しながら、 |
Now I live in Osaka. | うん、なるほど。それで? |
*2015と今の間を示しながら、
I have lived in Osaka for two years. Repeat. |
I have lived in Osaka for two years. |
haveって「持つ」って意味? あれ、変だな。 |
*野球部の生徒を指名して、 |
Ken: Nine years old. | へー、意外と遅いな。 |
You began to play baseball when you were nine years old. | フルセンテンスで言い換えたな | |
One more question. Do you play baseball now? | Ken: Yes. | それは知っているでしょ。 |
You play baseball now. So you can say "I have played baseball since I was nine years old." |
I have played baseball since I was nine years old. |
また、haveが出てきた! 意味が分からないな。 |
生徒の心の中の声を見ていただければ分かるとおり、一生懸命に言葉の意味や用法を自分なりに探ろうとしています。人間の本能だと思うのですが、何か整合性の取れないものを見たり聞いたりしたときに、その空白を埋めて「意味を見つけたい」という衝動に駆られます。
この習性をうまく利用してやることにより、生徒は新出文法に対して能動的に学ぼうとする姿勢になります。
必ず「まとめ」が必要です
このように「帰納的な指導法」には、生徒を積極的に「知りたい」という気持ちにさせるという大きな利点がありますが、反面、生徒の頭の中は現在完了形のポイントがぼんやりと形づくられているに過ぎません。
先ほどの例の中では、生徒はlivedもplayedも過去形であると勘違いしています。規則動詞を扱っている限り、この誤りに気がつくことはありません。
したがって、授業のどこかで必ず「まとめ」や「整理」をしてあげる必要があります。これによって、間違った思い込みや理解をしないで済むようになり、本当に「分かった」という状態に持っていくことが出来ます。
ターゲットとなる文法の骨格部分はこの「帰納的な方法」で導入を図るといいと思いますが、反面、細かい枝葉の用法や言葉の意味などに関しては、「演繹的な方法」で指導したほうが効率が良いでしょう。
たとえば、疑問文の作り方や、その答え方については、先に正解を提示したほうが、効率がいいと思います。(No, I have not.がNo, I haven’t.になったりする、というようなこと)要は、使い分けが肝心ということです。
「演繹的な指導法」は、学年が上がるにつれて自然と比率が増えるはずです。高校のレベルになると扱う文法事項が多岐にわたるので、効率の観点から、そうそう「帰納的な方法」を使うわけにはいかないからです。
英語の授業における「乾いた土」とは?
海外インター校で学んでいる小学生に英語の文法を指導した時のことを紹介します。当時、小学生2年生(英国式インター校ではyear4)の日本人の子どもの英作文を見ていて、三単現のsがついていたり、抜けていたりすることに気がつきました。
そこで一つ一つ「なぜ、sをつけたのか?」「なぜつけなかったのか?」を確認したところ、本人曰く「う~ん、分からない。何となく。」という答えでした。
そこで簡単に、文法の説明したところ、あっという間にほぼ完ぺきに、三単現のsを付けることが出来るようになりました。
おそらく彼自身も、いろんなセンテンスを読んだり聞いたりする中で、sをつける法則が無意識に気になっていたのだと思います。幼稚園までは日本にいたので、そのルールに関しては自然と身につくまでには至らなかったのでしょう。モヤモヤとした気持ち悪い状態が続いていたと思います。
そこへ、正解を提示してあげたところ、それまでのモヤモヤが一気に晴れて、すぐに理解して正しく使うことが出来るようになりました。時間にすると、20分程度です。(初めて英語を習う中学生が、三単現のsを正しく使えるようになるまでに、最低でも半年から1年はかかるでしょう。)
この経験を通じて感じたことは、ある程度「乾いた土」のような状態を作ってあげた方が、吸収が早い、ということでした。言い方を変えると、最初から水(正しい知識)を与えてばかりでは、結局、定着するまでに時間がかかる、ということも示しています。
また、もしこの子がそもそも動詞にsがつくことがある、ということに気がついていなかったら、それは0の状態なので、正しい知識を与えてもそれほど早くには身につかなかったでしょう(もちろん、すぐに教えてあげなければいけませんが)。ということは、ある程度ヒントを与えることが肝心ということです。
授業の上手い先生を見ていると、意識しているのかしていないのか、この辺の使い分けが実に見事です。「これは何だ?」「どういう意味?」「こんな意味かな?」(答えを早く知りたい!)という乾いた土の状態を作り、知りたい気持ちが最大になった頃に、「このように作ります。」と正解を教える、という流れです。
おそらく長年の経験により、帰納的な手法と演繹的な手法のさじ加減が分かっているのだと思います。
経験の少ない人でも、このような仕組みを知ることにより、短期間でこの「さじ加減」を身につけることが出来るようになります。そして、授業のスキルが大幅にアップすることは間違いありません。
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