英語文法を考えるスタンス

英語文法を考えるスタンス

文法をルール扱いしない、広い視野で柔軟な文法観を持つことの大切さ

 

英語を教えるにあたり、文法を学ばない指導者はいません。文法を教えない指導者もいません。

 

言語の土台として大きな役割を担う文法は極めて重要であり、(アクティブラーニングや豊富な発話の実践などの名のもとに文法学習を軽視する風潮も見受けられますが、基本的には)文法を拠り所とした学習を行うことが合理的だということを批判する人はいないでしょう。

 

ただ気になるのは、文法を、言語を正しく形作るための「ルール」であると認識し、「ルール」として教え、「ルール」として学ぶことがもはや指導者にとっても学習者にとっても常識となっていることです。

 

文法は本当に「ルール」なのでしょうか?

 

 

「ルール」という言葉の裏側には、どこか絶対的で抵抗しきれない堅さがあります。

 

そのせいか、「英文法のルールは絶対だ」、のように、まるで英語がはじめからその「ルール」のもとで存在してきたかのような印象を抱いている学習者は少なくありません。

 

指導者の中にも、「ルールとしての文法」が正しくあってはじめて言語が成立すると考えている人は多く、確かにそれは必ずしも間違ったこととは言えないのですが、英語を専門に扱う職業人としては、もっと幅広く柔軟な発想を持つべきであると私は考えています。

 

 

 

英文法は変わることを教えてくれる、歴史的観点の大切さ

 

かなりおおざっぱで端的な説明になりますが、少しだけ英語史の観点から文法を見つめてみたいと思います。

 

英語には紀元450年頃から現在に至るおよそ1500年強の歴史がありますが、その間ずっと同じ形、同じ文法が継続してきたわけではありません。

 

それどころか、初期(古英語期)の英語は、現代の英語と比較するとまるで同じ言語とは思えないほど文法的にも語彙的にも大きな違いがありました

 

日本語の古文を見て、私たちが現在使用している日本語と同じだと思う人はまずいないと思いますが、英語の場合はさらにそれ以上と言えるほど異なる形をしていました。
(どのような言語にも変化の歴史はあるものです。)

 

そして古英語の文法の複雑さときたら頭が痛くなるほどで、人称や数や性などによる非常に複雑な語形と格変化(屈折)を主体とした、悪く言えば現代英語と比べると語順にあまりとらわれない言語でした。

 

それがやがて、イギリスにおける、ヴァイキングに続くノルマン征服などの歴史的出来事、これに伴う他言語との接触や政治背景の変化と英語の言語的価値の低下、屈折の音声的特性などの様々な要因(しかもそのほとんどが人的要因)が重なりながら、古英語後期から中英語期にかけて、およそ200年から300年という短い期間に、その特徴であった屈折が衰退し、英語史上重大な文法変化が一気に加速していきました。

 

現代の私たちが理解しているところの「語順を大切にする英語」の素地がこの時期に誕生したのです。

 

英語史を学ばれた方には釈迦に説法のような話ですが、その後15世紀には母音大推移が始まり、活版印刷の導入による綴り字の固定化も手伝って、綴りと発音の新たな関係(それこそフォニックスで指導するようなこと)が生まれたことなどもあり、形的にも音声的にもより現代的な英語へと姿を変えていきました。

 

しかしそれでも、現代のような英文法が確立していたわけではありませんでした。

 

一般的に理解されている英文法というのは規範文法と呼ばれるものですが、本格的な英語の文法論議が始まったのは17世紀になってから、そして初めて英語が系統立てられた規範文法としてまとめられたのは18世紀になってからのことでした。

 

それでも当時は、どこまで原理に則って厳密に英文法を捉えるべきか、慣用的で口語的な不安定な表現などとの兼ね合いから一般の人々の間でも議論は揺れ、ある種の戸惑いも生じていました。
(たとえば、betweenは語源的にby twoというところから、これに厳密にしたがって二つのものの間にのみ用いるのか、それとも口語的に必ずしも二つに限定されない使い方がされているからこれを認めるのか、といったようなことです。)

 

 

このように、
・文法は歴史的に大きな変化を遂げてきたこと、
・「文法」という考え方自体が比較的新しいものだということ、
(いずれ紹介したいと思いますが、「文法」を意味するgrammarという単語すら、もともと別の意味であり、「文法」の意味が生まれたのは最近のことです。)
・人々もどのように文法を考え受け入れればよいのか分からなかったこと

 

をまず私たちは知らなければなりません。

 

当たり前に、そして簡単に受け入れられるような不変の「ルール」としての文法の姿はどこにもないことを知ることができるからです。

 

 

やがて18世紀の終わりまでにひとまず原型が作られた英語の規範文法は、現代に至っても大きな影響力を持ち続けており、私たちが知っている現代英語の文法も基本的にこの規範文法に基づいているものなのですが、この規範文法を築き上げた当時の文法家たちでさえ、今後も文法は変化しうるというスタンスを持っていました。(事実、18世紀以降も語法や語彙使用、発音など様々な点で変化しているものはいくらでもあります。)

 

 

確かに、言語が文法という名のルールによって成り立つのであるとはじめから提示されていれば話は早いとは思います。理解に易く、変化に戸惑うこともないでしょう。

 

しかし言語を操るのは多様な歴史や背景や感情を持った人間であり、よって広く英語の歴史を振り返るとき、

 

固定化された文法ルールなどはじめから存在したわけではないこと、
 
そして英語は人々の歩みに寄り添ったために変化に富み、それがまた人々の間で議論や戸惑いを生んでいた(いる)ことが分かるのです。
 
その意味で言語は生き物のようであると言えます。

 

このことを深く理解してください。

 

 

 

生き物としての文法を見る二つの視点、偶然のアメリカ英語という視点

 

文法とは、18世紀の文法家たちがそうしたように、その時代に生きる人々の言語の特徴を体系的にまとめあげたものに過ぎません。

 

はじめから存在していたのではなく、はじめから存在した言語を、あとから見つめたものが文法だということです。

 

ですから私たちは、極端なことを言えば、長い歴史の中で紆余曲折を経た結果として、たまたま現代にたどり着いた英語の使い方をたまたま学び、またこれをたまたま教えているに過ぎないのです。

 

 

言語がその言葉の使い方においてルールとして固定化されることなどありえないということは歴史が証明していることを述べました。

 

しかし、だからと言って規範文法を軽視しようというのではもちろんありません。

 

現代の規範文法はそれとしてしっかりと学び、学ばせることを大切にしつつ、一方で言語は人間に寄り添うものであるからこそ揺れ動くもの、つまり背景に人間が存在する以上変化は免れないものであるという柔軟な視点を保つことが、最も現実的な英語との向き合い方であると言えることを心にとどめておいてください

 

これは喩えるなら、静止画と動画の見つめ方の違いのようなものです。

 

私たちがよく知る現代英語を、現代という限られた時間における英語使用という観点でのみ切り取った見方が静止画的視点です。

 

一方、古英語期から現代にいたる英語の変化の流れを一連の大きな動きとして見るのが動画的視点です。

 

多くの現代英語指導者や学習者の認識している「ルール」としての英文法の見方は静止画的視点によるものでしかありません。

 

だからこそ、同じ一つの景色しか見えないために、現代英語がそこに至った背景や歩みが見えず、「ルール」であるはずの英語が抱える謎や疑問や矛盾や例外などにぶつかったときに戸惑うことがあります。

 

しかし、ここに動画的視点を加え、二つの見方を獲得することで、現代英文法の抱える様々な不協和や、「ルール」として扱った場合の矛盾点などに対しても見えてくるものは数知れず、理解と指導の幅も格段に広がるものです。

 

 

国際化という言葉が叫ばれて久しいですが、政治、経済、軍事などの世界的うねりの中で、現在において世界各国で様々な英語の姿が登場、衰退、変化を続けていることを知っておくことも重要です。

 

日本におけるアメリカ英語を主体とした英語教育の一方で、英語はイギリスから出発し、移住や植民地支配などの歴史を経て世界中に多様な英語(これを英語変種と言います)を生んだこと。
そして今や無数とも言える英語変種の中で、アメリカ英語が世界の英語の支配的立場として堂々と君臨していることは国際化の流れにおいてはあくまで偶然のことであり、その偶然の結果としてのアメリカ英語を私たちは指導しているに過ぎないという広い視野を持ってください。

 

 

歴史を学び、現代社会とも向き合い、これを通じて言語の本質を見抜き、英文法の生き物としての在り方を、そして英語の現在の位置づけを広く柔軟な視点で見つめることのできる指導者でいてください。

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