This is a pen.をバカにしない
This is a pen.の意味が分かりますか?
This is a pen.の意味を教えてください。
こんな中学1年生の最初の授業で習うような英文の意味を聞かれて「何をいまさら」と思われるかもしれません。
また、This is a pen.を実際に発言する機会もほぼないことから、この文は「そんなことは言わない」とバカにされてしまいがちでもあります。
しかし、意味を説明することは実は「これはペンです」の一言で片付けられるほど単純な問題ではありません。
「これはペンです」は「和訳」であって、「意味」ではないのです。
「和訳」ではなく「意味」を問われるとき、両者の間には大きな違いが存在し、これをきちんと理解する(させる)ことが、後の音読訓練や、英語を英語として理解するための重要な布石となります。
「和訳」の前に「意味」を考える
そもそも「和訳」ができるためには、英語を英語のまま緻密に「意味を知ること」が前提となります。
言葉の表面に表れていないことまで含めて、その文章から何がわかるのかを知ることが「意味が分かる」ということであって、「和訳すること」とは違います。
ではThis is a pen.の「意味」はどのように解釈しなければならないのでしょうか?
まず冠詞を考えてみましょう。
「不定冠詞a/an+単数名詞」はone of manyのことであり、「2つ以上存在する数えられるもののうちのいずれか1つ」を意味します。
ですからもともとこの世に1つしか存在しないものや、今話題にしている範囲で1つしかないものにはa/anはつきません。
(逆に言えば、「a/an+単数名詞」と口にしたら、それは自動的に「他にも同じ種類のものがある」ことを意味することにもなります。)
したがって、a penの「意味」は「この世の中にはpenという名称で呼ばれるものがたくさん(最低2つ以上)存在するが、その中の1つ(一例)だ」ということです。
aは単に「1つ」という意味だと思っている人も多いでしょう。確かに数字としては「1つのもの」を表してはいるのですが、その数自体が強調されているわけではありません。
数として「1」を強調したいのであればoneを用いてThis is one pen.となるはずですが、それもおかしな話です。a/anは「同じ名称で呼ばれる複数のものの中のとりあえず1つ」という意味でしかないのです。
このことから、a/anは話し手と聞き手(書き手と読み手)の間で「具体的にこれでなければならないもの」という強制力を持つのではなく、漠然と1つ存在していることを一例として示す程度のはたらきに留まることが分かります。
言い方を変えれば、いきなりa penと言われたところで、聞き手にとっては突如としてペンの存在を提示されたのであり、一体どのペンのことかを具体的に想定していたわけではないということになります。
これが、定冠詞theとの決定的な違いです。
theは「話し手と聞き手の間における相互理解・共通認識」ですから、the penと言えば、「どのペンのことか」を両者が踏まえた(理解・認識した)上での「まさにそのペン」という解釈になるわけです。
補足ですが、不定冠詞aに対して、子音の発音を語頭に持つ単語の前ではnを加えてできたものがanだと考えておられる方もいらっしゃるかもしれませんが、歴史的にはもともとanが先に存在し、数字としての「1」を強調するためにoneが生まれました。両者の発音も似ていますね。
それから子音の発音を語頭に持つ単語については発音の観点からnが脱落し、aと表わされるようになりました。
昔の英語にはanがまずあり、それが強形(数字を強く意識するもの)としてoneに、弱形(数字そのものは強く意識されないもの)としてaになり、母音が直後に来る場合だけanが生き残った、ということです。
次にthisについて考えてみましょう。
これを用いる状況とはどのような状況でしょうか?
発話の現場には、通常「話し手」と「聞き手」の最低2人の人間がいることが前提となります。
this「これ」とは、話し手にとっては「自分の領域の中にあるもの」を指す単語であり、なおかつ代名詞ですから、聞き手にとっては「何を指しているか分かるもの」です。
つまりThis is a pen.のThisを発話した瞬間に、聞き手は「話し手が話し手の領域内における何に対してthisと言っているか分かっている」ことになります。
聞き手が目を背けているとか、まるで話を聞いているとは言えないような状況ではthisは成立しません。
最後にbe動詞についてです。
beは「状態、様子、場所、存在」などに解釈されますが、根源的には「場所」の概念を中核に含んでいる動詞です。
具体的であれ抽象的であれ、何らかの状態で「ある場所にあること」が原義です。
ですから、違和感のある解釈になるかもしれませんが、ここでは「ペンがペンという場所にある」こと、つまり「ペンとして存在していること」を意味しています。
これらを踏まえてThis is a pen.の「意味」を正確に説明すると次のようになります。
「話し手が自分の領域内にあるものを聞き手もそれと認識している(話を聞いたり目を向けたりしている)状況でthis「これ」と示しながら、この世の中にはpenという名称で呼ばれるものが沢山(最低2つ以上)存在するが、これはその中の1つ(一例)として存在しているということを伝えている」
これがネイティブの理解であり、「これはペンです」という安易な和訳では伝わらない本質的な意味の理解ということになります。
This is a pen.は、冠詞、代名詞、be動詞の点で極めて重要なことがらを教えてくれます。
しかし、「これはペンです」程度の指導しか行わないでいると、生徒はいつまで経ってもa/anとtheのニュアンスが理解できなかったり、多様な解釈に広がるbe動詞をうまく捉えられなかったりします。
中学一年生にいきなり上記のような説明をすることは確かに難しいことでしょう。
しかしそれでも指導者は、簡単な英文であっても、簡単な英文だからこそ、その本質的意味を重要視し、折に触れて説明を加え、練習を通じてしっかりとその呼吸を感じ取ることができるように仕向けなければなりません。
細かすぎるほどきちんと理解するトレーニングを重ねることが英語力の向上に役立つ近道となると認識してください。
最後に余談ですが、以前に国会で次のような答弁が行われたのを見たことがあります。
「これは何ですか?・・・これはうちわですね?」
国会議員は自身の政治活動のために、宣伝を目的として作成したうちわを配布してはいけないという問題について、これを行った議員を追及するための答弁でした。
What is this? It is a pen.
「これは何ですか?それはペンです」
を彷彿とさせる、「バカげた発話」と揶揄されるようなセリフが、国会で飛び出したのです。
このシーンはテレビのニュースでも大々的に取り上げられました。
Is that Mr. Tanaka? No, that is an eraser.
「あれは田中さんですか?いいえ、あれは消しゴムです」
これくらいおかしな会話ともなれば問題でしょうが、This is a pen.程度の発話は実際には十分に起こり得るものです。
指導者が文脈や状況をしっかりと配慮すれば、工夫次第でThis is a pen.も十分に生きた英語となりますから、「バカげている」と一蹴せずに丁寧に向き合ってあげてください。
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