フォニックス(Phonics)の指導は賛成?反対?
フォニックス(Phonics)とは、英語の綴りと発音のルールのことです。
D (ドゥッ)
O (オ)
G (グッ)
これらのルールを合わせると、
DOGが(ドッグ)と読めるようになりますよ、という理屈です。
ご存知のように、日本語の場合は、基本的に一文字に対して一つの音なので、意識しなくても声に出して読むことは難しくありませんが、英語の場合はaでも複数の発音が当てはまります。
apple
shape
laid
そのため、ネイティブの子ども達は小学校低学年の段階でフォニックスを習い、これまで音でしか認識していなかった英語を文字と結び付けていく作業が必要となります。これによって本が読めるようになる、という理屈です。
フォニックス(Phonics)導入の賛成派と反対派、それぞれの主張とは
さて、日本の学習者、とくに小学校や中学校で初めて英語を習う生徒に、フォニックスを習わせるかどうかは、賛否両論あるようです。まずは、両者の意見を簡単にまとめてみましょう。
賛成派の意見
・日本語のように一文字・一音ではないので、ルールを学んだ方がよい。
・ローマ字読みをしてしまうケースが多いので、英語との違いを理解させるためにフォニックスを学んだ方がいい。
・初めて見る単語でも推測して発音できるようになる。
反対派の意見
・英語の音に慣れる前に(幼少期に)フォニックスを導入すると、英語嫌いになるか、非効率になるケースが多い。
・フォニックスのルールが当てはまるものは、単語全体の75%にすぎないので、万能ではない。
・ルールを覚えることが目的になってしまう危険がある。
・日本ではまともにフォニックスを指導できる教員がほとんどいない。
両者の意見を比べて分かる通り、どちらも言い分があり、どちらが正しくてどちらが間違っている、と言い切れるものではなさそうです。
確かに私も含めてフォニックスを学ばずに、いつのまにか新出単語でもある程度正確に読めるようになっていくので、絶対に必要なわけではないとおもいます。
しかしながら、反対派のように25%の例外があるからすべてやらない方がいいという、all or nothing の発想も、もったいない気がします。
どちらの意見も「フォニックスを本格的に導入すること」に対してのものだから、ここまで分かれてしまうのかな、と感じました。それならば、もっと気軽な感じでフォニックスを扱ったら、日本人学習者にも適したいいとこ取りできるはずです。
A君の悲劇
まずは、ローマ字と英語ではまったく異なるものである、という大前提を理解させることが非常に大切です。私自身が中学1年生の時に経験した出来事を紹介します。
英語を習い始めて初めての単語テストがありました。「友人」を英語に直すのですが、私は「フレンド」と読みながら練習していたのでfrendと間違えてしまいました。一方、A君は、「フリエンド」とローマ字読みをしてfriendと正しく書けて満点でした。
当時私が不思議に思ったのは「なぜ、自分の方が正しく読んでいるのに、スペリングを間違えたのだろう。」ということでした。アルファベット1文字には複数の音が対応している、と気がついたのはしばらく経過してからでした。
さて、半年ほどが過ぎると、A君は英語がまったく出来なくなってしまいました。綴りを覚えるためにローマ字読みを貫いていたので当然です。一方、音を正確に読もうとした私は、初期の綴り間違いは気にせず正確な音読を続けた結果、英語が得意になりました。
振り返ってみると、当時の英語の先生は、英語のアルファベットは1文字につき1音ではないこと、複数のパターンがあると同時に例外も多い、ということをきちんと理解させるべきでした。
さらに、単語を覚えるときは「発音、品詞、意味、語法」が優先順位であることも付け足してくれたならば、多少の綴り間違いは気にせずに、正しい方向に迷わず学習できたと思います。
もし、私がA君の話に納得して「じゃあ、こんどから自分もローマ字読みして綴りを覚えよう。」と間違った方向に進んでいた可能性もあったわけで、フォニックスを完全否定できないのには、私のこのような経験があるからかもしれません。
実際の授業で、どのように扱うのが適切か?
あまり複雑なルールを覚えることは「ルールを覚えることが目的」となってしまう危険があるので、母音までにとどめておくのはどうでしょうか?(深くやればやるほど、正直、飽きます)
例えば、普段からappleのaの発音は(ア)と(エ)の中間のような音で口を横に広げる、というように(単)母音を一つずつ扱っていたとします。
次に、vaseのa(エイ)のような音が出てきたときに、似たような音のパターンを黒板に書いていって一緒に読んでいきます。(たとえば、race, case, faceなど)
最後にvaseに戻って、どのように発音するかを推測させて何とか自力で読ませてみる、というパターンを時々織り交ぜてみれば、意外とすんなり読めると思います。この程度でもフォニックスを部分的に取り入れた指導と言えると思います。
(フォニックスとは関係ありませんが、ateが出てきたときにeightと音が同じである、ということを教えるのも、非常に効果的です)
例外的な25%の中でも、使用頻度が高い単語は(例:said, have, one)フォニックの理屈抜きに綴りと音をすり合わせる作業(音読など)を繰り返すことによって、「いつの間にか覚えてしまった」状態に持っていくのはさほど難しくありません。
なぜなら、「使用頻度が高いから」です。(ちなみに、これらはTricky WordsとかSight Wordsなどと呼ばれています)
ですから、極端な反対派の方達の主張にあるように、「例外があるから全部やめた方がいい。」というのも少々乱暴な意見に感じます。
私の考えをまとめますと、特別に本格的なフォニックスを学ぶ必要はないかもしれない。でも、母音を中心に簡単なルールを扱う。ルールに当てはまらない頻度の高い語は、綴りをみて正しく発音することを繰り返して理屈抜きに覚えさせる。
この程度のフォニックス指導でも、十分その効果を発揮できると考えます。
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