"How are you?" "I'm fine.” は不自然だから、やめるべき?
英語学習の初期の段階である中学一年生に教える代表的な挨拶表現に “How are you?” “I’m fine.” のやり取りがあります。
これまで指導者も学習者も、英語学習や英会話の第一歩としてほとんど盲目的にこれを教えたり学んだりしてきましたが、実際にはこのやり取りには注意を払わなければならない要素がいくつかあります。
“How are you?” “I’m fine.”の現実的使用頻度の低さと意外なニュアンス
一つは、現実的な使用としてこれがどれほど使われているか、ということです。
ネイティブスピーカーの英語講師の意見や私の個人的な留学経験(アメリカ)なども踏まえても、出会いがしらの “How are you?” “I’m fine.” のやり取りはほとんど行われていません。
ネイティブスピーカーの中には、これはもはや死語だと断言する方もいるくらいです。
代わりに彼らは “What's up?”、“How's it going?”、“How are you doing?” などのより一般的で日常よく用いられている挨拶表現を教えてくれます。
私の体験的にも、毎日耳にするのはこれらの表現ばかりでした。
もう一つは、“How are you?” “I’m fine.” は必ずしも一般的に想定される「調子はどうですか?」「元気ですよ」というシンプルな意味で用いられるとは限らない、ということです。
“How are you?”とあえて尋ねる背景には、相手が病気だったとか体調が悪かったとか、尋ねるに値するだけの理由があるように感じさせるため、“I’m fine.” という応答には「(病気などから回復して)大丈夫です」といったニュアンスを生むことがあります。
また、調子の悪い時に、まともに調子が悪いことを伝えると、「面倒くさいな」と思われてしまうため、これを避けるためにわざと“I’m fine.” と答える、といったように、やはり応答に相応しい何らかの背景を感じさせます。
では“How are you?” “I’m fine.”から何を学ぶか?
一方、“How are you?” “I’m fine.” を通じて学ぶことができるものも少なくありません。
それは特に文法的な面にあります。
このシンプルなやり取りは、
・疑問詞を文頭に置くとその後ろで語順転倒が起こって疑問文が成立すること、
・疑問文の後にはすぐにその答えが置かれること、
・そしてその答えは疑問文に含まれるSとVに対応すること、
といった重要な英語の原理を教えてくれます。
確かに日常会話では死語に近いほど役に立たない表現なのかもしれませんが、文法指導の材料としてはとても分かり易い教材となるのです。
現実的な使用に向いているという意味で、“What's up?” や “How is it going?” などの挨拶表現を教えることは決して悪いことだとは思いませんが、これには“What’s up?” の “up” とは何か、“How's it going?” の “it” とは何かといった意味機能、さらには進行形の形と解釈までもが問題となるため、細かいことを言えば、初級の学習者には少々難易度が高いため注意が必要です。
「ネイティブが頻繁に使う表現だから覚えてしまえ」と言うのは簡単ですが、丸暗記させただけの表現力を英語力と呼んではいけないことはしっかりと心にとめておきたいところです。
最終的には、“up”や“it”、進行形のニュアンスや構造理解も含めて、総合的に理解し使用できることが本当の意味での英語力だからです。
そうした意味では、シンプルでありながら英語の基本的な仕組みを教えてくれる
“How are you?” “I'm fine.”
は初学者の方々にとっては学びやすい優れた英語表現だと言えます。
実践的な使用状況が分かれば“How are you?”を生きた英語として指導することができる
“How are you?” “I’m fine.” が文法指導に向いていると言っても、現実的にほとんど使わない表現であることには変わりないではないかと思われるかもしれません。
ところが、“How are you?” という問いかけ自体は実は死語ではないのです。これを発言する英語のネイティブスピーカーを私はアメリカで何人も見てきました。
先に述べたような、一般的に想定される「調子はどうですか?」というシンプルな意味に最も近い使い方として以下のような例があります。
“How's it going?” “Good. How are YOU?”
「調子はどう?」「良いよ。君はどう?」
このように YOU を強調する形で「あなたはどうなの?」と聞き返す使い方です。
これは日常的にとてもよく用いられる “How are you?” です。
もちろん、病気や体調不良の相手と用いる “How are you?” “I’m fine.” もその状況においては実践的な使用ですから、生かさない手はありません。
つまり、“How are you?” “I’m fine.” が生きている文脈や状況は必ず存在するわけですから、そうした背景を踏まえた状況設定などをして、適切な使用に則した形でこれを指導すればいいのです。
「学習者は英語を知らない」ことを忘れてはいけない
“How are you?” “I’m fine.” の使用頻度の低さ、意味の意外さ、学び取ることのできる文法、そして実践的な使用に応じた指導について述べてきました。
これらを総合的に考え、いかに簡単なやり取りであっても、だからこそ難しく工夫が必要だということを理解し指導にあたってください。
そしてそのために持つべき視点として、指導する表現自体がどれだけ簡単なことだと私たちが思っても、基本的には「学習者は英語を知らない」ことを忘れてはいけません。
決して実践英会話主義を批判するわけではありませんが、「学習者は英語を知らない」という大前提を踏まえることもなく、従来のように盲目的に「“How are you?” “I’m fine.”を覚えよう」とか、「ネイティブが教えてくれる生きた表現を知ろう」などと言うのは一方的な押し付けにしかならないことも少なくありません。
「“How are you?” “I’m fine.”は死語だ」に表されるように、「ネイティブはこう言う」、「学校で習う○○は実際には使わない」という指摘に翻弄されることもあるでしょう。
しかしそれらは優れたアドバイスである反面、英語学習の正しい尺度にならないリスクも抱えています。
“How are you?” “I’m fine.”のやり取りだけでも多くの側面から語り議論し、生徒に教えることができるのです。
ネイティブスピーカーではない英語の学習者が何に悩み、何を分からないと感じ、どこでつまずいてしまうか、日本語話者だからこそ知らないことや日本語話者ならではの間違え方や理解のできなさがあるため、そこを無視することなく、多角的かつ丁寧に教え、訓練を積ませるようにしてください。
まとめ
では、具体的にどのような手順ですすめればいいのかというと、中1の最初の頃は
“How are you?” “I’m fine.”
が、いいと思います。
1学期中にbe動詞の疑問文を学習するので、日頃、丸暗記していたフレーズも文法を基礎とした深い理解へと変わるチャンスだからです。
2学期からは様子を見ながら、自然なやりとりに移行していきましょう。
“How’s it going?” “Good. How about you?”
こんな感じなら、クラス全体で声をそろえてやり取りするのにも、簡単でいいですね。
加えて、前回病欠だった生徒が授業に出てきた場合名前を呼びながら、
"Ken, how are you?" "I'm fine, thank you."
というやり取りが出来れば、最初の頃に習ったことは無駄にはなりません。
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