意外と難しい!英語の「現在形」を簡単な言葉で指導する
「現在形」の時間的幅広さを正しく認識し、簡単な言葉で指導する
「現在形」という文法用語のおかしなところ
時制は英語学習の最も初期に学習する単元で、中でも現在形は時制を伴う文章として最初に登場する文法です。
しかし、多くの場合「~する」「~である」という日本語を充てて使い方を指導する裏側で、現在形の持つ本質的な意味を生徒たちは意外なほど理解していません。
これには「現在形」という文法用語そのものが、現在形が本来抱える時間の幅を正しく示していないことに原因があります。
たとえば中学一年生に“I play soccer.”という例文を示すとき、どのように教えますか?
「私はサッカーをします」
これが訳としては最もシンプルで分かり易いことは否定できません。
しかしこのとき、「この文章は、私はサッカーをします、という意味になります」と教えてしまってはいないでしょうか?
「私はサッカーをします」は「訳」であって「意味」ではありません。
ターゲットは時制(現在形)ですから、「私が実際にサッカーをする」のは「具体的にはいつのことか」、という時間的発想と結びつけた意味の説明がなされていなければ、現在形を理解させたことにはならないことをまず頭に入れておいてください。
では、「私」は一体いつサッカーをするのでしょうか?
確かに現在形が使われてはいますが、この発言をしている瞬間に「私」はサッカーをしているのでしょうか?
プレイの真最中にその場にいる誰かに「自分はサッカーをしている」という事実を伝えたいのでしょうか?
そしてプレイが終われば“I don’t play soccer.”ということになるのでしょうか?
もちろん違います。
“I play soccer.”に読み取ることができるのは、「私」という人物は趣味やクラブ活動、プロ選手であれば仕事として「日常的にサッカーをする」という、習慣的行いとしてサッカーを自分の生活に取り入れているということです。
そして「日常的に」ということは、おそらく「私」は昨日も一昨日も先週も先月もサッカーをしたのだろうし、今日もきっとするだろうし、明日も明後日も来週も来月もサッカーをするのでしょう。
それが「日常的」ということだからです。
ボールを蹴ったり走ったりといった具体的動作を発話の瞬間に伴っていなくても、過去から未来への明確な区切りの見えないぼんやりとした幅広い時間帯の中で、話者はサッカーを日ごろ行うのです。
つまり「現在形」は、実のところ過去も現在も未来もすべて含んでいるということになります。
過去形と未来表現との区別のために便宜的に「現在形」という用語が充てられていますが、その本質的意味を決して間違えないようにしてください。
そして正しく教えてください。
「現在形」という文法用語によって「今日・今」というイメージを与えられてしまうことで、現在形の表す時間の幅広さを正確に捉えている生徒は驚くほど少ないものです。
感覚的にはなんとなく理解している生徒はいるでしょう。しかし、この説明のように冷静に現在形を見つめる姿勢を持った生徒は極めて稀です。
難しいことを分かり易く教える言葉の工夫が指導者の腕の見せ所
上述のように指導者が現在形を理解していても、中学一年生にいきなり解説するのは無理があるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、そこが指導者にとって、「難しそうなことをいかに分かり易く教えるか」という腕の見せ所です。
私の場合、中学生にも分かり易く理解してもらうために、現在形は「いつものこと形」だという言葉で教えることにしています。
参考書的な「習慣」だの「反復」だの難しい言葉は使わずに、生徒には「とにかく現在形って、いつものことなんだ」と理解してもらえればいいのです。
先のサッカーのような例文から「いつものこと」のイメージを持たせてから、
①“I am John.”「僕はジョンです」って、「ジョンはいつでもジョンだよね」
②“I go to school.”「私は学校に行きます」って「学校に通うのはいつものことだよね」
③“The sun rises in the east.”「太陽は東から昇ります」って、「今日も太陽はいつも通り東から昇ったよね」
といった具合に、いろいろな例文を用いてどんどんそのイメージの定着を図ります。
高校生になると、参考書によってこれらを①現在の状態、②習慣(反復)、③一般的な事実や真理(不変の真理)などの小難しい解説で学習させられることになり、途端に現在形がとっつきにくく難しい印象を与えてしまい、高1の春、入学早々に早速文法嫌いの生徒を生みかねません。
これを避けるためにも、結局のところ①②③などは使われている動詞や文意によって分類されているだけのことであって、「現在形はいつものこと」という本来の意味から決して逸脱していないことを知り、分かり易く教え定着させておくことが大切です。
中学生のときからしっかりと正しいイメージを認識させておけば高校生になっても問題なく向き合うことができるのです。
(その意味では中学校の指導者こそ、高校英語の難解な文法解説用語を見据えておかなければなりません。生徒たちが高校生になった途端に難しい文法用語に翻弄され、せっかく中学で習ったことと結びつけて考えられなくなってしまっては本末転倒です。)
さらに、次のような会話におけるleavesのような現在形の使い方にも納得ができるようになります。
“What time are you going to leave tomorrow morning?”
「明日の朝は何時に出発するの?」
“Well, the bus leaves at seven, so I should leave here by six thirty.”
「そうだね、バスが7時に出るから、6時半までには出なきゃ」
「7時」は未来のことであるにも関わらずleavesが現在形で用いられるのは、「バスはいつも決まって7時に出発する」、つまり「7時に出発するのがいつものこと」だからです。
文脈上、明らかに未来のことでも時刻表で決まっていたり、定例の会議のようにスケジュールにいつも組み込まれたりしていることがらなどは現在形で表わされることもすんなりと受け入れられるはずです。
ついでながら、次のような疑問文の意味も理解できるようになります。
“What do you do?”
これは「あなたは何をしますか?」が文面上の「訳」ですが、本来の「意味」は
「あなたがいつものこととして行うことは何ですか?」
つまり、
「あなたの職業は何ですか?」
と聞いているということですね。
この現在形の理解をスタートとして、
- いつものことではない「今この瞬間のこと」は現在進行形
- いつものことではないすでに終わったことは過去形
- いつものことではない未来の予定(計画)や自分の意志で行う未来のことがらなどは未来表現
というふうに、現在形と関連付けてステップアップしながら別の時制項目を教えることに繋げることもできます。
正しさと未来を見据えて授業を
基礎の基礎でありながら、なかなかきちんとした理解ができていない(理解させられていない)現在形について述べてきました。
上述の内容を考慮した上で、自分なら中学生にどのような分かり易い言葉で説明するか、高校生になっても混乱しないためにどのような例文を選び取って定着させるかなど、文法・意味的な正しさと未来を見据えた指導を意識して授業に臨んでください。
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